━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第4号 ━━
特許には、『諦めない心』と『物事の本質を見抜く力』が必要であることを前号で述べた。
ここでは、『創造力』と『解決力』について考えてみたい。
創造力が発揮される対象を「未来」とすれば、解決力が発揮されるのは「今ある課題」といえるであろう。
創造力も解決力も、会社の人事評価では重要なスキルと定義されているが、実際は、解決力重視の傾向が強いのは否めない。
何故ならば、会社には、今解決しなければならない課題が散在しており、殆どの社員はそれらの解決に振り回されているからである。
発明者が申請してくる特許を長年見てきたが、やはり今日明日の課題を解決するために考えたものが非常に多いという実感がある。
ゆっくりと将来の夢を語り合う時間や暇等、殆ど無いに等しい。残念ながら、会社に入れば、常に目の前の課題を解決することを強いられるからである。
それだけ、時代の変化が激しいということであろう。
もう一つ、「プロダクトアウト」と「カスタマイン」という言葉がある。
「プロダクトアウト」とは、いい商品を市場に送り出すことであり、バブル前の大量生産時代の企業戦略の一つと言っていいだろう。
しかし、バブル崩壊後は、市場のニーズが多様化し、色々な顧客のニーズに合致した商品を提供する、いわゆる「カスタマイン」の戦略が重要視されるようになった。お年寄り向け携帯電話や持病持ちの人に向けた保険商品等がそうである。
現在では、多くの経営幹部が、プロダクトアウトではなくカスタマインが重要であると説いている。
しかし、新商品企画会議等で議論されている内容は、競合他社との性能比較や価格比較が多く、「顧客ではなく、他社より良いものを!」という意識の方がまだ強いのである。
確かに、売れるものでなければ作っても利益は上がらない。従って、他社よりいいものを出すことの方が優先され、技術者もこれに従う他はない。
まさに、創造というより、解決が物を言う世界なのである。
会社は、創造力を逞しく働かせた特許が極めて出にくい環境にある言ってよい。
日本の特許が世界に比べて劣るとしたら、それは創造力によって生み出された特許が少ないということではないだろうか。
かつて、「アイデアは米国、品質は日本」と云われた時代があったが、その当時、米国のアイデア特許に国内メーカが相当苦しめられたのを覚えている。
アイデア特許とは、まさに5年後、10年後を見据えた未来を創造する特許といえる。しかし、品質向上のため今日明日の課題に追い回されていた日本人にとっては、非常に縁遠い特許なのである。
「創造」よりも「解決」に重きを置く体質は、多くの企業で変わることなく今も脈々と生き続けている。
日本が諸外国に負けない知財力を持つためには、この創造力で生み出された特許が必要なのである。
そして、その鍵を握っているのが、まさに学生諸君ではないだろうか!
確かに、発明し易い環境という面では、設備にも材料にも恵まれている会社の方が有利であることは事実だ。
しかし、環境が整わないと発明が出来ないというのは、誤りである。環境は、飽く迄も検証の場であって、創造の場ではないと考えて頂きたい。
5年後、10年後の世界に想いを馳せる力こそが創造力の原点である。
将来を築いていくのは、若い世代の人達である。
その人達が、今何が足りないのか、何があったら便利になるのか、より良い社会にしていくには何が必要なのかを考え、その夢の実現に果敢に挑戦していただきたい。
きっと、素晴らしいアイデアが創造できるはずだ。
そのヒントになれば有難いが、私は、IT(Information technology)の環境はかなり整っていると思っている。
これからは、IM(Information management)の時代、即ち、如何に上手く情報を使いこなすかが重要な時代になるであろう。
最近、『Big Data』という言葉がよく使われているように、世の中には物凄い数の情報が氾濫している。
それらの情報をどう上手く使いこなしていくかが、今後ますます重要になっていくことは確かである。
情報は、使い方ひとつで、善にもなれば悪にもなる。
将来を担う学生諸君には、自分たちが、そしてその子供たちが豊かに生きていく社会を目指し、巷に氾濫する『情報』を上手く活用してもらいたい。
きっと、素晴らしいアイデアが創造できるはず。
そして、自分が創造したアイデアを企業に提案し、受け入れてくれる会社に就職すればよい。
学生諸君の熱い想いを受け入れてくれる会社は必ずあるはずだ。また、会社もそうならなければ将来への発展は望めないのではあるまいか。
もし、そのような会社がなければ、自ら起業すればよい。
ベンチャーで起業するには、この創造力と熱い想いが必要だと思う。
一方、大学も自らの研究を学生に負わせるだけではなく、学生からの提案を受け入れ、その実現を支援する機能を備えるべきではないだろうか。
創造力が豊かな人財を育成するためには、大学もまた変わっていく必要があるように思えてならない。
卒業して就職することを目的とする学生生活ではなく、将来自分が何をすべきかをしっかりと見据えられる道標が立てられるような学生生活を送ってもらいたい。
私達、知財に従事する者は、彼らの創造力の育成と、創造したアイデアの実現を強力に支援していかなければならない責任を負っているのである。
それが、必ず真の知財立国の礎になるはずだと思えてならない。
次回は、「中小企業における知財戦略の改革」について述べたい。
それでは、また。
★ 編集後記
一人でも多くの学生の皆さんに共感を持って頂き、特許事務所を活用して
頂ければと願い書いてみました。
特許事務所も変わっていかなければならないのです。