━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第7号 ━━
同じような製品を製造・販売している2社があるとする。
A社は、年間売上10億円、保有特許1000件
B社は、年間売上1000万円、保有特許10件
この2社が、互いの特許で戦ったら、どちらが有利だろうか?
答えは、「B社」だ。
何故なら、A社がB社の特許を1件でも侵害していたならば、そのインパクトは10億円。
一方、B社のインパクトは最大でも1000万円。
仮に、A社と同じインパクトをB社に与えるとしたら、A社の特許100件をB社が侵害していなければならないことになる。
しかし、経験上、一つの製品が100件もの特許を同時に侵害するのは到底あり得ないことだ。B社がA社の製品をデッドコピーしていない限りは。
従って、両社が特許で真っ向勝負したら、売上規模の小さいB社の方が有利なのだ。
以前、交渉相手の米国特許弁護士がこんなことを言ったのを覚えている。
『 One patent sticking, big money moving. 』
1件でも有効な特許があれば、大金が動く。
日本流には、「ハチの一刺し!」とでも言うべきか。
即ち、売上規模が大きい大手企業の方がダメージが大きく、一発逆転される可能性が高いということである。
中小企業だからといって、大手との特許紛争を恐れる必要は全くない!
ということをご理解いただきたい。
大切なのは、数ではない。
たとえ1件でも、確実に相手を刺せる特許を持っているか!ということだ。
では、「相手を刺せる特許」とは、どういう特許なのか?
一般的には、技術的に優れた特許とか、製品のコアとなる特許、等と言われているが、私は、ちょっと違った定義をしている。
即ち、『真似されたくない部分を押さえた特許』
これが、「相手を刺す特許」だと言いたい。
「技術的に優れた特許」と「真似されたくない特許」、一体何が違うのか?
技術的に優れた特許とは、誰もが考えつかなかった高度な技術を駆使した特許で、云わば技術者の誇りとでもいうべき特許といえる。
これに対して、真似されたくない特許とは、その製品に対して消費者が魅力を感じる部分(構造、機能、使い方、価格、利便性、等何でもよい)を押さえた特許のことである。
特に、ハイテクでなくても、消費者に購買意欲を起こさせるために考え出されたアイデアや工夫を指す。
いくら高度な技術を使っても、消費者に受け入れられない製品では意味がない。
他人が真似したいと思うのは、技術ではなく、製品が持つ魅力なのである。
従って、その魅力を盗まれないように特許で押さえておくことが大事なのだ。
技術は、真似しなくても人、金、物さえ投入すれば、代替が可能だ。
しかし、製品の魅力は、誰が見ても同じものでなくてはならない。
だからこそ、消費者に魅力を与えるものを特許化しておくことが大事なのだ。
「確かに魅力は大事だが、そんなのが果たして特許になるの?」
という疑問の声が出そうだが、
私は、敢えて言いたい。
特許とは、「なるか、ならないか」の世界ではなく、「するか、しないか」の世界であると!
よく、「これって特許になりますか?」という質問を受けるが、私は、「何故それを、特許にしたいの?」と切り返すことにしている。
そして、その必要性が『製品の魅力』と密接に関わるものであれば、ブラシュアップをしたり、発明のストーリーを練ったりして、どうしたら特許化できるかを必死になって検討するのだ。
場合によっては、特許よりも意匠や商標の方が武器になるケースだってある。
特許になるものを特許にするのは、誰にでも出来る。
しかし、特許にしなければならないものを、どうやったら特許にできるか、
その答えをアドバイスするのが、特許屋の役割なのだ。
よく有りがちなのが、低価格を売りにしている製品なのに、出した特許は、高速化や高機能化の特許ばかり、という例は珍しくない。
これは、ただ出せばいいとしか考えていない技術者と、特許になるか否かしか考えていない特許屋がペアを組んだ時に起こりがちなことである。
日本では、年間30万件超の特許が出願されているが、そのうち事業に貢献できる特許はほんの僅かしかないという嘆かわしい実態は、まさに安易な知財戦略の稚拙さを物語っているのではないだろうか。
消費者に対して、今までにない魅力を伝えるためには、そこに何らかのアイデアや工夫が必要なはずだ。
それを見逃さずに特許化した企業こそが、変化の激しい時代を生き延びていける企業なのだと思う。
中小企業の知財戦略は、もはや特許の数でなく、相手を刺す特許を1件でも多く取れるような施策を持つことだ。
消費者の心に刺さる商品の魅力、それが相手に深く突き刺さる特許といえる。
次回は、特許事務所変革の必要性について私見を述べたい。
それでは、また。
★ 編集後記
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