━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第8号 ━━
『特許事務所の本分とは、何か!』
・特許の明細書を書いて、特許庁に出すこと・・・?
・出した特許を登録させること・・・?
果たして、それで良いのだろうか!
確かに、昔のように、各企業が件数重視の特許戦略を取っていたならば、事務所は、依頼されたものを「出して、取る」だけで十分貢献出来ていたと言えよう。
しかし、今は、特許予算さえも削らざるを得ない企業が多い中、件数を期待するのは難しい。
従って、企業から依頼されるのを、ただ黙って待っているだけでは、事務所の経営は成り立たなくなってきている。
そのため、かなりの事務所が閉店を余儀なくされているようだ。
では、どうすれば良いのか!
そう、待っているのではなく、貰いに行かなければならないのだ。
しかし、貰うと云っても、ただ企業を訪問して「下さい」と言えば、
「はい、どうぞ」という訳にはいかない。
企業にとって必要な特許を見つけ出してやる力が要求されるのである。
だが、これまで待っていれば貰えるという習慣に浸りきっていた事務所には、残念ながら「特許を見つけ出す力」はない。
必要な特許を見つけ出すには、特許法の経験ではなく、事業の経験が必要だからである。
対して、特許事務所の中には、若くして弁理士資格を取った人や、弁理士を目指して勉強している人が多く、企業で長年事業に揉まれ、ビジネスの辛苦を経験した人達が少ない。
従って、「これを特許にして!」と言われて明細書を書くことは出来ても、
「何を特許にすればいいの?」という質問には答えられないのである。
では、「事業の経験」とはどういうことか!
まず、その会社の経営トップがどのようなビジョンを描いているのかを理解できること。
更に、そのビジョンに従って、会社が何に力を入れているか、
また、得意不得意が何なのかを探知できること。
そして、これらの情報に基いて、技術者から必要な発明を引き出せること。
少なくとも、これらのことがコミュニケーションを通じて成し得なければ、
会社の事業に必要な特許を発掘することは出来ないであろう。
いや、それは、特許事務所の仕事じゃなくて、企業の知財部の仕事じゃないの?
特許事務所は、そこまで首を突っ込めないよ、と言われるかも知れない。
本当に、そうだろうか!
例えば、同じ物でも見る角度によっては、全く違った物に見える、とよく言われるではないか。
その通り!
見方が違えば、形も違って見えるし、答えも違ってくることは、私も、数多く経験した。
特に、会社内部の人間の見方と社外の人間の見方では、恐ろしいほどの違いが出てくるものだ。
特許の場合、その違いは「悪い違い」ではなく、「良い違い」なのだ。
色々な角度から技術を眺めて議論することで、その本質が見えてくる場合が多いのも経験からいえることである。
だから、特許事務所もどんどん企業の中に入って行って、自分の眼で見たこと、確かめたことを徹底的に議論すれば良いと思う。
当然のことながら、特許事務所には守秘義務があり、その議論が決して他人に漏れる心配はない。
要するに、特許事務所は、もっと事業経験者を仲間に入れて、クライアント企業の中に入り込んで行ける体制を作らなければならないと言いたいのである。
そして、その企業にとって必要な特許を積極的に発掘する手助けをしていくことで価値と信頼を得るとともに、良質な知的財産を獲得する役割を担っていくことが大切なのだ。
今一つ言いたいのは、日本の特許事務所は「物云わぬ事務所」が多いという事である。
下手に言ってクライアントの機嫌を損ねでもしたら大変だと思っているからだろうが、それは違うのではないだろうか。
何でも、「ハイ、ハイ」と聞いているだけならば、特許の下請けと同じだ。
そんな事務所は、決してパートナーにはなり得ない。
たとえば、
・最近の特許は偏りがあるようだ
・質が落ちた感じがする
・技術者の理解が完全ではないようだ 等々
真剣に特許明細書と向かい合っていれば、気付くことも多いはず。
しかし、私は、かつて会社にとって耳の痛いことを特許事務所に言われた記憶がないのだ。
「変だ」と気付いた時には、例えそれが言い難いことであっても、あえて提言することが大事なことだと思う。
それが、クライアントを大切にしている証なのではないだろうか。
下請けに成りきって物云わぬ事務所には、全く魅力がない。
どう頑張っても、企業に入り込んで特許を発掘するなど、到底出来ないことのように思われる。
「物云えぬ事務所」は論外だが、せめて「物云える事務所」へと脱皮すべきだ。
多くの特許事務所が、「事業経験の知識」を身に付け、「物云える事務所」へと自ら変革していくことで、日本の知財力は大きく発展していくのではないだろうか。
次回は、特許事務所変革について、もう少し掘り下げてみたい。
それでは、また。
★ 編集後記
この手記が、少しでも日本の知財改革の役に立てれば光栄です。