知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

特許事務所の変革  (その2):第9号

2014年1月13日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第9号 ━━

 

これまでも述べてきたように、今、日本では年間30数万件の特許出願がなされている。

 

しかし、その大半は、特に使い途がなく特許の維持費だけを国に納めているだけの、云ってみれば、ただのお飾り特許ばかり。

 

特許は使うことで価値が出るはずなのに、休眠特許や埋没特許となって憂き目を見ないお飾り特許ばかりでは、水のないダムと同じ。

 

国は特許料の減免制度をアピールしてはいるが、お飾り特許を減免して何の意味があるのだろうか?

 

恐らく、発明意欲の向上を意図しているのであろうが、制度や法令を構築しただけでは知財立国にはなれない気がする。

 

いくら立派な器を作っても、中に入れるものが無ければ、ただのお飾りでしかない。

 

「中に入れるもの」とは、「発明」のことだ。

 

制度や法令の整備も大事だが、それにも増して大事なのが『発明者』の育成ではないだろうか。

 

しかるに、発明者の育成は企業に任せ切り、大学も発明の育成には必死だが発明者の育成には無頓着。

 

これが今の日本の実態のような気がする。

 

発明者を育成するということは、取りも直さず「人」の育成である。

 

発明者の育成に、もっともっと投資しなければ、本当に優秀な特許は生まれてこないはずだ。

 

『発明者の育成』・・・ここに特許事務所のやるべき道がある。

 

間違ってもらうと困るが、発明者の育成とは、技術者や学生に特許法を教えることではない。

 

会社でも大学でも、技術者や、新入社員、あるいは学生に、特許法を講義することで特許を教えた気になっているが、

 

それは、特許の専門家(特許技術者)を育成するものであって、発明者を育成するものではない。

 

極端な話、技術者に特許法はいらないのだ。

 

必要なのは、「発明とは何か」ではなく、「どうしたら、発明できるのか」を教えることである。

 

そのためには、どうやって課題を見つけ、どうやってそれを解決するか、まずは、ここにスポットを当てなければならない。

 

そして、目の前にある課題から逃げ出さずに、その課題の根本となる原因を見つけ出し、それを最もシンプルな方法で解決する。

 

これが、いい発明をするための秘訣であり、技術者に教えるべき大切な教育であると、私は考えている。

 

確かに、正確に課題を見極め、その根本原因を追究し、更にもっとも単純に解決する方法を探すのは、至難の業だ。

 

しかし、それを乗り越えてこそ本当に価値のある発明を手に入れることができるのだ。

 

私は、技術者が書いてくる発明提案書に対して、

 

・これでは、だめだ。コストがかかり過ぎる!

・課題の認識がまだ甘い。別の欠点が出てしまう!

・根本的な解決にはまだ至っていない! 等と、

 

技術者から嫌がられるくらい、何度も何度もフィードバックをかけるようにしている。

 

その結果、本当に解決しなければならない課題がぼんやりと見え始め、打つ手も変わってくる。

 

最終的には、当初のアイデアとは全く違ったアイデアに生まれ変わり、技術者も驚くほどの効果を発揮する発明が誕生する。

 

特許屋は、技術者ではないから発明をすることは出来ないが、いい発明を完成させるための手助けはできる。

 

それは、発明を育成するのではなく、技術者という人を育成することなのだ。

 

五月蠅がられたり、嫌がられたり、電話をかけても居留守を使われたり、嫌な経験もたくさんした。

 

でも、それで技術者が一度成功体験をすると、次からはもっとコミュニケーションが取り易くなり、頼りにされるようになる。

 

「人を育てる」とは、こういうことではないだろうか。

 

特許事務所で明細書を書いている所員は、技術者に嫌われないように最低限のコミュニケーションだけで取り繕っている人の方が多いように見える。

 

そして、明細書を書くだけのロボット、クライアントの言いなりロボットに成りきってしまっている。

 

しかし、分かっているはずだ。

 

この発明のどこが悪いのか! どうすれば、もっと良くなるのか!

 

それを、技術者に分かり易く伝え、考えるための道標を与えることが、本当の特許屋の役目なのだと言いたい。

 

日本で、お飾り特許を量産しているのは、企業だけの責任ではなく、特許事務所の責任に負う所も決して少なくない。

 

価値ある特許を創出して知財大国が名乗れるようにするには、特許事務所の経営者が所員の意識改革を進め、感性を高めていくことが極めて大事な要件であることを理解して頂きたい。

 

所員は、発明だけを見るのではなく、発明者も見なければならないことを!

 

より高い次元の特許にするためには、発明者をもっと悩ませ、もっと深く考えさせる、そのための手助けをしてやらなければならないことを!

 

発明者が育てば、黙っていても結果としてお飾りではなく、真に価値のある素晴らしい特許が誕生するのだから。

 

次回からは、今後取り組みたい知財改革について書いていきたい。

そして、それが、意を同じくする方々の参考になればと願っている。

 

それでは、また。

 

★ 編集後記

 

「してみせて、言ってきかせて、させてみて、褒めてやらねば人は育たぬ。」

私の好きな言葉です。

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。