知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

知財改革への取り組み (その3):第12号

2014年2月3日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第12号 ━━

 

これまでに経験した多くの特許侵害事件を振り返ると、そこには、ある共通点がある。

 

相手を攻めた特許でも、相手から攻められた特許でも、非常に手強いと感じた特許は、

 

云ってみれば、『当たり前の特許』なのである当たり前の特許とは、

 

技術者曰く、「エッ!! こんなのが特許になるの?」という特許のことである。

 

勿論、技術者は、その特許の存在を知っていた訳ではなく、知らずにごく普通に使っている技術・・・

 

これを先見した特許が、当たり前特許なのである。

 

では、一体何故そんな特許が成立するのか?

 

答えは、簡単! 出願した時期が早かったからだ。

 

でも、いくら早くても当たり前じゃ、特許にならないのでは?

 

違うんです! 出した当時は、当たり前じゃなかったんです。

 

時間が経ち、誰もが皆同じようなことを考えるようになって当たり前になってきた、というのが正しいといえる。

 

当たり前特許とは、解決方法が斬新なのではなく、課題の発見が人より早かったというべきなのだ。

 

前にも述べたように、特許は「2つの壁」を越えなければならない。

1つ目は、目に見える壁、

そして2つ目は、その壁の後ろに隠れている壁。

 

普通の技術者は、目の前に見える1つ目の壁を解決して、それを特許として申請する。

 

しかし、その後、必ず2つ目の壁が立ちはだかってくるのだ。

 

例えば、スピードが足りないという課題に対して、高速化技術を考え出すとしよう。

 

その時は、皆、それで良くやったと満足する。

 

ところが、時間が経つと今度は、コストの問題が出てくる。もっと安く作らないと売れないという問題だ。

 

そこで、やっと以前考え出した高速化技術のコストを下げる工夫に取りかかる訳だ。

 

これに対して、スピード問題解決のために高速化技術を考え出した時、この次に来る問題は低価格化であると見抜いていた技術者は、ただ高速化するだけではなく、如何にして安くそれを実現するかを同時に考えるのである。

 

そう、2つ目の課題を人より先に気付いた者だけが、後々、当たり前となる特許を取ることが出来るのだ。

 

今では当たり前でも、当時は誰も考えていなかった発想、これが本当に威力のある特許を産み出すのである。

 

1つ目の壁は、誰でも越えられる。しかし、2つ目の壁を見通す力が特許の価値を大きく左右するのだ。

 

このことを念頭に置いて、2つ目の壁を意識して技術開発すると他人より一歩先んじることができるのだ。

 

かつて、新聞でも取り上げられたSIMM特許(パソコンで使われている増設メモリ特許)、その明細書には「future use」という言葉があった。

 

今だけでなく、将来も使えるように・・・という意味だ。

 

この将来も使える所まで配慮された特許技術に、相当苦しめられたことを今でも忘れない。 本当に、悔しかった!!

 

それでは、また。

 

★ 編集後記

 

当たり前特許って、潰そうとしても、なかなか潰せないものです。

 

当たり前すぎて、敢えて誰も触れていないから、当たり前だと証明する材料が見つからないのです・・・。

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。