━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第14号 ━━
少し前の話だが、大手ゲームメーカのセガ(SEGA)が、
ゲームソフト『イナズマイレブン』の制作・販売を行っているレベルファイブを提訴したとの報道が流れた。
イナズマイレブンが、セガの特許を無断で侵害しているというのが提訴の内容である。
いわゆる、一般的な特許侵害訴訟事件と言える。
報道等では、9か月間にわたって交渉を重ねたが、埒があかず訴訟に踏み切ったとされている。
セガの特許は、タッチパネルを操作して画面上のキャラクターの移動を制御するもので、最近のゲームソフトではよく見られるもののようである。
これに対して、提訴されたレベルファイブ側は、裁判で
特に目新しいものではなく、特許として認められる
べきではない(俗にいう、特許無効の主張)。
イナズマイレブンのゲームは、その特許を使ってはいない
(俗にいう、特許非侵害の主張)。
の2点で反論しているようだ。
これを見る限りは、ごく一般的な特許訴訟と言えるだろう。
訴訟で使われているセガ特許を見たが、法廷では、かなり細かな技術論争が繰り広げられることが予想される。黒か白かは、裁判所の判断に任せるとしよう。
ただ、レベルファイブ側は、
セガの特許が登録される前からイナズマは既に販売されており、後からクレームをつけ訴訟を起こすのは、法律問題は別として同業界の一端を担う者として違和感を覚える、
との見解を公式表明しているとの一部報道やインターネット情報が掲載させているが、
本当にそう思っているのであれば、特許権に対しての認識が未熟すぎると云わざるを得ない。
登録は発売後であったとしても、出願は発売前に済ませてあるから、この点に関しては法律問題を別にはしないで頂きたい。
まあ、それはさておき、この訴訟が明るみに出た以上、事件が一般消費者の目に留まるのは何等不思議なことではない。
しかし、レベルファイブは、この訴訟が消費者に与える影響については、少しも考慮していない。
消費者は、他でもない彼らのお客様なのに。
ゲームを楽しんでいる子供たちは、販売差止めという言葉を聞けばどう感じるだろうか。
戸惑い、嘆き悲しむ子供たちの顔が、見えていないのだろうか・・・
確かに、訴訟提起から約2か月後の、2012年12月12日付けの公式見解書を見ても、ユーザに対する気配りは全くなされていなかった。
まるで、提訴された自分たちが被害者であるかのようなコメントにしか見えない。
一体、ユーザをどう守っていくつもりなのだろうか?
「誠に遺憾ながら法廷で争う結果となりましたが、お客様にはご迷惑をおかけ致しません。ご安心下さい。」の一言ぐらいは、最低でも必要なのに。
それが嫌なら、9か月と云わずもっともっと交渉を重ねる戦略を取らなければならないはず。
相手が勝手に仕掛けてきたことだから仕方がない。負けたら、その時ユーザには謝ろう。
もしも、このような考えを持っているとするならば、お客は逃げていくだろう。
特許訴訟は、ユーザから見れば、原告も被告もどちらも加害者なのである。
決して、そのことを忘れてはならない。
事業運営の基本として、深く刻んでおいていただきたい。
企業人としての知財意識改革の必要性を強く感じる事件である。
因みに、セガも、勝訴して販売停止にでもしたら、イナズマのユーザから不買運動を起こされるかも知れないので、ご用心を!
それでは、また。
★ 編集後記
給料は、誰から貰っているのですか?
会社ではありませんよ! お客様から頂いているのです。