知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

知財改革への取り組み (その6):第15号

2014年2月24日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第15号 ━━

 

少し前、越後製菓とサトウ食品が『切り餅』を巡って壮絶な特許紛争を繰り広げたのは、まだ記憶に新しい。

 

餅の側面に切り込みを入れることで、型崩れせずにきれいに焼き上がるようにしたのが、越後製菓の特許である。

 

サトウは、側面だけでなく、表面にも裏面にも切り込みを入れているので、特許侵害ではないと主張し、

 

一審では、この主張が認められて無罪となったが、これを不服とした越後製菓が上告して二審で逆転判決を勝ち取った。

 

側面に切り込みがある以上、特許侵害に該当するとの判決であった。

 

サトウは最高裁まで持ち込んで争ったが、結局二審の判決は覆ることなく、サトウ側の敗訴で幕を閉じた。

 

恐らく、サトウは、越後製菓の特許を単に盗んだのではなく、自らも色々と実験を重ね、試行錯誤の結果、

 

上下面にも切り込みを入れ、納得のいく切り餅を完成させたことは、想像に難くない。

 

しかし、それでも、裁判所は許さなかった。

 

側面に同様の切り込みがある以上、逃れることは難しい。

 

『人は、見た目で判断する。』と云ったら、裁判所に失礼かも知れないが、

 

負けた側からすれば、見た目が同じなのは、本当に厄介な戦いを強いられるのだ。

 

特に、陪審員裁判では、技術素人の人達が判断する訳だから、見た目重視の傾向は否めない。

 

如何に技術に差があろうとも、見た目が同じなら、アドバンテージは権利者側にある。

 

『視覚』とは、実に恐ろしいものだ。

 

同じことは、以前書いた「音に反応して色が変わる」特許でも言える。

 

被告となったゲームメーカの責任者の方から、法廷で陪審員相手に無実を証明するための実機検証をした経緯を伺ったことがある。

 

自分たちのゲーム機では、音の信号を切っても、色は変わるし、色の信号を切っても、音は出る。

 

「音はなくとも色は変わる。色はなくとも音は出せる。」音と色は、別物だ。 何故、これが侵害と言えるのかと・・・

 

しかし、実際のゲームでは、音が出たら色が変わるではないか、と云われ、結局勝つことはできなかった、と悔しがっておられた。

 

技術は、視覚に勝てない!

これが、特許訴訟における私の持論である。

 

丸い特許があるならば、楕円ではなく三角にしよう。

赤い特許があるならば、ピンクではなく青にしよう。

 

技術者には酷な話かも知れないが、他社特許からの回避場面では、妥協は禁物である。

 

見た目が同じなら、使っている技術も同じだろう。

見た目が違えば、使っている技術も違うはずだ。

 

そう考えるのが普通の人間なのではないだろうか。

 

そして、この普通の人間を納得させることが出来なければ、裁判で勝つのは難しいと考える方が無難である。

 

一方、見た目を変えることで、違う技術を思いつくことが多々あることも知っておいて頂ければと思う。

 

長いホースを収納するのに、円状の巻き付け型が主流であった。これを、楕円状にしたり、八角形状にしても然程代わり映えはしない。

 

でも、最近はホース自体を伸び縮みさせるTVコマーシャルを目にするようになった。

 

確か、米国製だったような・・・。

 

それでは、また。

 

★ 編集後記

 

私は、物真似が悪いとは思いません。

 

それが、同じものを作るためではなく、欠点を見つけて、更に良いものを作り出すためならば。

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。