知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

知財改革への取り組み (その9):第18号

2014年3月17日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第18号 ━━

 

東芝のフラッシュメモリに関する秘密情報が韓国のライバル企業に漏えいしたニュースが報じられた。

 

同社は、早速、不正競争防止法違反を理由に損害賠償を求める訴えを東京地裁に提起したそうだ。

 

被害額は、1000億円を超えるとのこと。

 

東芝のフラッシュメモリといえば、1980年に出願された舛岡特許が印象深い。

当時は、NAND型ではなくNOR型のフラッシュメモリだったと記憶している。

 

注目特許は、1980年11月から1981年7月にかけて24件出されていたが、その出願戦略が実に見事だった。

 

まず、基本となる記憶セルの構造と製法、そして目玉となる消去ゲートの構造と消去方法を含む基本思想を13件出し、次いで、消去効率、書込み効率、読出し効率に関する回路特許を5件、更に、過消去防止関連特許とレイアウト関連特許を6件、

 

まさに、基本概念から回路設計、そして製品設計という技術開発にぴったりと同期した出願だった。さすがは東芝と、唸らされたのを覚えている。

 

NAND型はそれから6年後の出願だったと思う。

 

そして、東芝は2004年に今回と同じ企業を特許侵害で訴えており、その後、和解した経緯もある。

 

一方では、この企業が次世代メモリの共同開発パートナーとも報じられている。

 

片方の手で握手しながら、もう片方の手で張り倒す・・よくある企業話だ。

 

それはさておき、今回の情報漏洩事件は、いわばノウハウの漏えいと云っていいのかも知れない。

 

特許では、あれ程立派な成果を出せる会社が、何故・・・

 

特許では保護できないノウハウ、これは、知的財産の中で最も強力な武器と云える。

 

自分で喋らない限り、誰も知ることが出来ないからだ。

 

しかし、一度漏れると、もう取り返しのつかない紙屑同然の情報になってしまう脆さも持っている。

 

情報漏えいは、何も今に始まったことではない。

 

多くの企業が、この漏えいの罠に嵌っては、コンプライアンスが大事だといって莫大なコストをかけて様々な再発防止策を講じているが、埒があかないのが

現状のようである。

 

特に、人手による漏えいは、どんな仕組みを作っていても簡単にこじ開けてしまう。

 

今回の事件も、東芝の協力会社の元社員と言われている。

 

漏洩防止の環境作りも確かに必要ではあるが、漏れた情報は、「覆水盆に返らず」なのだ。

 

大事なのは、人の扱いのはず。

 

コカコーラのノウハウは、エキスの成分にある。これを知り得るものは会社のトップ3だけで、この3人は決して同じ飛行機には乗らないそうだ。

 

ノウハウを守るには、まず人を守る必要があるのではないだろうか。

 

聞くところによれば、東芝のフラッシュメモリの発明者はやりたいことが出来ず、特許出願後に退社したという。

 

NECでは、CCDの発案者が、やはり会社と折が合わず退社してしまった。

 

有能な頭脳を弾き飛ばす企業体質は、一体いつまで続くのだろうか!

 

上司の顔色伺いを日課とする人間の方が、早く出世する世の中。

 

日本の企業は、人の扱いが三流以下だと云われても仕方がない気がする。

このままでは、情報漏洩に歯止めをかけるのは、かなり難しそうだ。

 

それでは、また。

 

★ 編集後記

 

リストラしなければ会社が潰れ、従業員が路頭に迷う、という経営幹部が

今もいます。しかし、リストラされる人も従業員なんです。

 

会社が危ないのではなく、自分が危ないんじゃないでしょうか!

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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