知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

知財改革への取り組み (その10):第19号

2014年3月24日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第19号 ━━

 

「特許法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されたとのこと。

 

この改正で、一度廃棄された『特許異議申立制度』が復活する見通しとなった。

 

経産省によれば、「特許権の早期安定化を可能とすべく異議申立制度を創設する」とのこと。

 

一方、登録後の「特許無効審判制度」は、そのまま存続する模様。

 

しかし、異議申立も無効審判も、どちらも一旦登録された特許を潰すための制度であることには変わりがない。

 

それならば、どちらか一つだけでも十分なのではないだろうか?

 

確かに、潰すタイミングの問題はあるのかも知れないが、本来、認められるべきではないはずの欠陥特許が間違って登録されたのだから、それを是正するのにタイミングは関係しないはず。

 

むしろ、異議申立を復活させる理由が、「特許権の早期安定化」という所が引っかかる。

 

これは、恐らく特許庁での審査の質向上と云いたいのであろう。

 

しかし、欠陥特許を振り落す機会を二度設けたからと云って、果たして欠陥特許が100%取り除けるだろうか・・・?

 

否、それは所詮、無理な話である。何故なら、人が審査する以上、完全はあり得ないからだ。

 

実際に特許を使う企業人の立場から云えば、特許に欠陥があるから潰したいのではなく、事業の邪魔になるから潰したいのだ。

 

事業に関係しない欠陥特許は、黙っていても何の弊害もないが、事業の妨げとなる特許は、何としてでも潰したい。

 

例え、その特許に欠陥が見当たらないとしても、全力で調査して隠れた欠陥を見つけ出そうとするのが、企業の知財部の仕事なのである。

 

また、特許で権利行使する局面を見ても、自分の特許に欠陥があると知っていながら、行使する人はいない。それは、詐欺だから。

 

即ち、特許を潰すのに二重に精力を使う必要はないのではないか。

 

特許を審査する側と使う側とでは、全く立場が違う。

 

企業の側からは、潰したい時に潰せる機会があれば事足りる訳である。

 

それよりも、もっと特許権が有効に機能する環境を整備してもらいたい。

 

大企業だけでなく、中小企業、あるいは学生や主婦の皆さんが、もっと気軽に特許を出せる(例えば、良さそうな特許を国が買い取り、積極的に宣伝活動をして実施料が入れば、それを発明者に還元する、等)の仕組みを作ったり、

 

原告立証主義を緩和して、特許侵害をもっと発見し易くする(米国のディスカバリ制度のような)ための制度を設けたり、海外メーカから徴収したロイヤルティ収入に対して税制優遇措置を講じたり・・・とか、

 

特許を潰すことに手間暇かけるより、特許を活かすことに力を注いで欲しいものだ。

 

知財立国の本質は、特許を潰すことではなく、特許を活かすことだと思う。

 

 

特許法と独禁法は相反する法律である。一方を強化すれば、他方は軟化される。

 

かつて、日米半導体戦争が盛んだった頃には、米国は国策として特許法を強化し、プロパテント旋風で日本企業を翻弄した。

 

そして、インテルとマイクロソフトが独り相撲を始め、世界から非難が集中する頃には、プロパテント政策から脱却して、独禁法を強化しWintel体制をけん制した。

 

知財の活用という面では、米国は日本より一歩も二歩も先を走っている。

独禁法強化の時代が終焉を迎え、また特許法強化の幕開けとなるだろう。

 

サムソンとアップルの特許戦争が火種となって、知財強化策で経済危機を乗り越えようとする企業が増えることが予測される。

 

この時代に、日本の政治が、果たしてどの様な先見的な政策を打ち出してくれるのだろうか。

 

今、まさに正念場に立っている。

 

異議申立の復活とは別に、海外に負けない革新的な制度を切に期待したい。

 

それでは、また。

 

★ 編集後記

 

今回の改正法では、「音」が商標として認められるそうです。

人の五感に訴える識別力は、何も音だけではありません。

 

そのうち、「匂い」も商標登録されるのでしょうか?

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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