━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第23号 ━━
法廷闘争という最終兵器を使わざるを得ない局面では、原告側にも被告側にも、それなりの事情がある。
その事情を知っておくことで無用な争いを避けることができればと思い、これまでに経験した訴訟の舞台裏を振り返ってみたい。
特許侵害訴訟を決断する前に、必ずと言って言い程、交渉の場が設けられる。
この場で、どの製品が、どの特許を侵害しているのかが明らかになる。
権利者は、証拠を突きつけて侵害の根拠を明示する。
これに対して、被疑者は、非侵害の反論を行う。場合よっては、先行技術を提示して特許無効の主張が行われることもある。
いずれにせよ、交渉の席上では、侵害の対象となる特許と製品(技術)が明白に特定される。
特許に不慣れな素人は別としても、普通は企業の特許専門家や弁理士が、問題となっている特許と製品の関係を確認することができる訳である。
そして、特許の専門家であれば、それが侵害といえるのか、あるいは、特許無効が正しいのか、の判断は可能である。
余談だが、特許専門家や弁理士の中には、「違いはある」とだけ言って、侵害か否か、無効か否かの判断を明言しない人もいるが、そのような人を決して当てにしてはならない。
曲がりなりにも特許のプロならば、はっきりとした答えを出さなければならない責任を負っているはず。
でなければ、企業の経営者は勝敗の目途が立たないまま訴訟へと引きずり込まれてしまうからだ。
さて、私が言いたいことは、侵害か否かは、権利者及び被疑者の主張を見れば、
訴訟の前に勝ち負けの判断は可能であるということだ。
なのに、何故、法廷闘争にもつれ込むのか!
権利者の立場からすれば、明らかに非侵害の特許で負けを知りつつ法廷闘争するような愚か者はいないし、
被疑者の立場からすれば、負けを覚悟で訴訟費用まで払う愚か者もいないはずだ。
結局、訴訟という最終兵器を使わざるを得ない原因は、侵害の有無を確認することではなく、対価(ライセンス料や賠償額)にあるということだ。
この対価が、両者にとって許容できるものであるならば、訴訟ではなく交渉で決着できるのである。
しかし、金品の利害関係が絡む場合、権利者は出来るだけ多くの対価を要求するし、被疑者は少しでも安くしようと必死になる。
その折り合いがつかない時に、訴訟へと突入する訳である。
では、何故折り合いがつかないのか!
そこには、権利者(原告側)と被疑者(被告側)それぞれに隠された事情があるからだ。
次回から、権利者と被疑者の表に出せない思惑を披露していきたい。
それでは、また。
★ 編集後記
特許訴訟で、多大な利益を得た会社は、何故か倒産するケースが多いようです。金に目が眩み、本分を忘れてしまうからでしょうか。
「負けるが勝ち」って、本当なのかも知れませんね。