知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

経験者が語る知財紛争の教訓 『訴訟への決断!』・・・権利者の裏事情:第24号

2014年4月28日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第24号 ━━

 

権利者が被疑者に侵害警告を出す場合、権利者には入念な事前準備が必要である。その準備とは、

 

・被疑者の製品及び関連資料の収集

・侵害事実の確認

・クレームチャート(侵害立証書類)の作成

・審査経過のチェック【エストッペル(禁反言)対応】

・要求対価の試算

・警告起案の決済

 

が主な作業である。

 

商売相手に警告状を出すからには、一時の感情に流されてはならない。侵害立証には、論理性と客観性が大切である。

 

下手な証拠だけで警告した場合、被疑者から営業妨害行為として逆提訴される危険性がある。

 

従って、上述したような細かなプロセスを踏んだ上で、警告状の送達に至る訳である。

 

裏を返せば、権利者としては、この時点で侵害行為の可否判断は既に完成しており、被疑者から余程の反論資料が出ない限り、勝敗は既に決着していると云える。

 

後は、被疑者からの回答を待つだけである。しかし、

 

権利者が望むような回答を得るのは、不可能に近いのが現状である。

中には、予想もしなかった回答が送られて来て当惑した経験も多い。

 

 

以前、韓国の大手財閥企業相手に特許侵害警告を行なった時の顛末を紹介したい。

 

時代は、金大中大統領が韓国の経済危機を打開するためビッグディール政策を敢行する少し前のことである。

 

我々は、その韓国企業の製品を入手・分析して、10数件の特許侵害の事実を確認した。

 

1件ずつ丹念にクレームチャートを作成し、社内稟議を経て、警告状を送達した所、韓国からの回答は、「身に覚えがない」との内容であった。

 

侵害行為について、肯定も否定もせず、ただ「身に覚えがない」との回答に困惑した我々は、

 

早速、回答をよこした責任者にコンタクトを取って、話し合いの場を求めた。

 

結果、韓国でなら会っても良いとの返事を得た我々は、3人で早々にソウル本社へ出向いた。

 

受付を済ませて通された部屋は、大会議室だった。

席に着くとまもなく、20人近くの大集団が入室して来た。

 

こちらからの訪問者が3人であることを知っていながら、その6、7倍もの人数を揃えて来たことにまず驚かされた。

 

やはり、日本とは全く違う文化の持ち主のようだ。

 

かなりの時間をかけて名刺交換を済ませ、3人の日本人を相手に大勢の韓国人が対峙する形で着席した風景は、こちらが被告かのような威圧感さえ感じられた。

 

交換した名刺を見ると、知財スタフだけでなく、法務、技術、営業と多士済々のメンツが顔を揃えている。

 

桶狭間の丘の上に立って今川勢を眺める信長のドラマを想起したのを今も覚えている。

 

会談に応じてくれたお礼を述べた後、相手方中央の席に座った役員から、来韓に対する謝辞を頂いた。

 

人数のアンバランスを除けば、交渉の形としてはまずまずのスタートである。

 

本題に入り、我々の警告状に対する「身に覚えがない」との回答の真意を求めた。

 

これに対して相手の口から出てきたセリフは、我々が予想もしていなかった内容であった。

 

その内容は、次回へ。

 

それでは、また。

 

★ 編集後記

 

韓国との交渉は日帰り出張も多く、成田での入国手続きではいつも怪訝な顔をされました。

 

日本の技術貿易収支改善のために奮闘している善良な一市民なのに・・・

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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