━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第27号 ━━
(前号の続き)
引き延ばし作戦で逃げようとする韓国企業に対して、我々は、まず、次のような質問を投げた。
J・・「クレームチャートに示したように、御社の侵害行為は明らかである。2~3ヶ月待てば、我々の要求通りの対価を支払ってもらえるのか?」
K・・「確認作業が終わらないと答えられない。」
やはり、話し合いでの解決は難しいようだ。そこで、我々は、次のような提案をした。
J・・「1か月待ちましょう。対価を支払ってライセンスを受けるか、それとも
拒否するか、それまでに決めて頂きたい。もし、回答が得られない場合、次回は法廷でお会いすることになるだろう。」
K・・「・・・・・。」
我々は、相手の沈黙を見て、訴訟を切り出すタイミングが適切であったことを確信した。攻めるのは、今だ!
追い打ちをかけるように、
J・・「我々は、日本でも韓国でもなく、米国での訴訟を考えている。勿論、地裁の判断と行政(国際貿易委員会:ITC)の判断の両方を仰ぐつもりだ。
しかし、訴訟では、損賠賠償は過去分だけに留め、将来分についてはノーライセンス(製造・販売差止め)方向で申し立てたい。」
目の前の相手全員の顔色が変わったことが、はっきりと伺えた。
相手方中央の席に座っている役員から「しばし、休憩を頂きたい。幹部の意見を聞いてから我々の意向をお伝えしたい。」との発言があり、休憩に入った。
部屋に残された我々は、彼等の回答を予想し合った。
今までに経験した韓国企業との交渉を考えても、一筋縄ではいかないことは知っている。
恐らく、何らかの切り札を出してくることだろう。それが、一体何なのか・・・。
色々考えても予想はつかなかった。
ただ、云えることは、彼らは脅しに屈するような相手ではないということだ。
万が一、訴訟に突入すれば、どうなるか?
今は、このシミュレーションの方が大事である。
日本を発つ前に、既にトップからは、最悪訴訟も辞さずの構えで交渉を進めることの了解はとってある。
従って、単なる脅しで訴訟を切り出した訳ではない。それなりの覚悟を持って通告したつもりだ。
この真意が、どこまで相手に伝わったのだろうか?
「訴訟」という言葉を発した時、相手役員の顔をしっかりと見据えていたのは覚えている。
我々の覚悟が伝わっていれば、良いのだが・・・
休憩に入ってからほぼ1時間を経過しようとしていた。
その時、会議室のドアが開き、「あと10分程で戻ります。」という伝言があった。
さて、どのような答えが出るのだろうか。10分後、足音が聞こえてきた。
驚いたことに、部屋に入ってきたのは、大人数ではなく先程の役員と知財部長の二人だけであった。
着席した彼等の口から出た言葉は、・・・・
(次号へ続く)
それでは、また。
★ 編集後記
この交渉は、丁度韓国がIMFの管理下に置かれている時期でした。
ショッピングタウン明洞も活気がなく、ただ屋台だけが賑わっていたのを覚えています。
中1日祭日がありましたが、とても観光する気分にはなれませんでした。
埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。