知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

経験者が語る知財紛争の教訓 『訴訟への決断!』・・・権利者の裏事情(その5):第28号

2014年6月2日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第28号 ━━

 

(前号の続き)

 

着席した相手役員は、我々を見ながら「お待たせして申し訳ない。当社の方針が決まったのでお伝えしたい。」

 

そう言って持参した書類に目を落とした。

 

交渉成功か、それとも、決裂か・・・緊張の一瞬である。

 

K・・「本件、契約締結の方向で話を進めたい。」

 

この一言で、我々は、この交渉は成功したと思った。

 

K・・「ただし、その条件として、我々が持っている特許との交換という形でお願いしたい。」

 

この提案は、いわゆる、クロスライセンス契約である。

 

我々の攻守分離作戦は、飽く迄も訴訟喚起ための呼び水であったから、契約締結に向けての彼等からのクロス提案は、むしろ好都合である。

 

ここまでは、作戦通りの展開でよかった。だが、

 

K・・「クロスとなると、御社の方の売り上げが3~4倍大きいから、平等を期すためには、御社から弊社に対してペイバックが欲しい。」

 

はあぁぁぁ・・・!?

 

これだから、外国企業相手の交渉は厄介なのだ。

 

なるほど、彼等の切り札は、これだったのか!

彼等は、1円たりとも払いたくないという腹積もりのようだ。

 

この交渉が日本企業だと、訴訟を避けて和解に持ち込む場合には、普通、相手の要求額の半額を提示して、それで事を収めようとするのだが。

 

これまでの経験から云って、話合い交渉における支払対価の落着は、双方の言い値を足して2で割ったあたりと決まっている。

 

従って、国内企業相手に一方的に攻めている交渉では、我々が貰うというプラスの図式の中で行われるのが常だった。

 

しかし、韓国は・・・こちらが一方的に攻めている交渉なのに、逆に対価を要求するというマイナスの図式から応戦してくる。

 

確かに、「足して2で割る」という方程式において、支払いをせずに済ませるには、マイナス回答をしなければならない。

 

これには、勉強させられた。

彼等の武器は、『売上高の差』なのだ。

 

さて、この局面をどう乗り切るか! 彼等の話を聞きながら、次の作戦を考えていた。

 

我々の口から「訴訟」という言葉を出せないようにするためなのか、彼らはこう続けた。

 

K・・「今、韓国は金大中大統領のもと、ビッグディール政策が進められている。我社もこの先どうなるか分からない状況に立たされている。もし、事業撤退ということになれば、我々の特許は第三者の手に渡ってしまうだろう。

そうなれば、御社はその第三者を相手に戦うことになるから、この点を十分に考慮してもらいたい。」

 

韓国の経済打開政策は、薄々感じてはいたが、やはり大手財閥まで巻き込んでの国家規模での選択と集中が行われようとしているのか・・・。

 

では、どうやって彼等から対価を得るか、これが最大の課題となった。

 

しかも、悠長に構えるゆとりもない。

今回の交渉で、決着を着けなければ、長引くと立場は悪くなる一方のようだ。

 

ここは、真っ向勝負しかない。

そう考えた我々は、交渉の原点に戻り、次のように返事をした。

 

 

(次号【最終章】へ続く)

 

それでは、また。

 

★ 編集後記

 

当時、出張中にお世話になった韓国の弁理士さんから、

「韓国の経済危機を救うために、自分達も結婚指輪を国家に寄付した。」

と聞かされ、国民性の違いに驚かされました。

 

我々日本人は、国も会社も毅然とした指導者不在で、かつ国民も自分のことしか考えていないように思われ、ちょっと考えさせられました。

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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