知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

経験者が語る知財紛争の教訓 『訴訟への決断!』・・・被告の裏事情(その5):第34号

2014年7月14日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第34号 ━━

 

突如、浮上した巨大なサブマリン特許に戸惑う日本企業・・・

 

こちら側にいくら強力な特許があったとしても事業をしていない個人相手では、全く通用しない。

 

しかも、相手はアメリカ合衆国のプロパテント政策という後ろ盾に守られている。我先にとライセンスを取得した企業もあるという。

 

それも、製粉機から派生させたマイクロプロセッサというインチキ特許に・・・

 

 

しかし、そうは云っても、これが実際に自分の目の前で起きている、巨額の金が動く特許紛争なのである。

 

社内では特許非侵害の確認訴訟を起こす準備をしながら、私は、米国へ飛んだ。

 

訴訟を起こすにしても、相手の腹の内を少しでも探っておく必要があると考えたからだ。

 

相手弁護士の事務所は、ロサンゼルスの超高層ビルに入っていた。事務所の構えとしては、一流といってよい。

 

このビルは、映画「ダイハード(確か、1だったと思う」のロケ現場として使われていたらしい。

 

案内された応接室は、ロスの街並みが一望できる非常に眺めのよい部屋だった。

 

高い所が苦手な私は、窓から一番離れた椅子に着席した。しばらくして現れたのは、癖のありそうな3人の弁護士だった。

 

彼等は、握手と挨拶を交わした後、対面の席に座った。

 

他愛のない話で緊張をほぐした後、飛行機の中で考えていた質問を2つ投げてみた。

 

1つ目は、既に契約を交わした会社があるのか?

そして、2つ目は、訴訟の準備をしている会社があるのか?

 

小太りの中年弁護士が、

 

1)3社とライセンス契約が完了しており、まもなくあと数社とも結ぶ予定である。

 

2)訴訟に関しては、今の所予定はないが、望むなら起こしても良い。

 

いかにも自信ありげな口調で答えが返ってきた。

そこで、更なる2つの質問を試みた。

 

「契約は、一括方式なのか、それともランニング方式なのか?」

「契約した会社の中に日本の会社はあるのか?」

 

ランニング方式とは、1台いくらとレート決め、それに年間販売数量を掛けた分を毎年支払う方式のこと。

 

対して、一括方式とは、販売数量に関係なく契約時に合意した一定金額を一括で前払いする方式のことである。

 

通常、ライセンスする側としては、販売数量が少なく将来の売り上げ予測が困難な企業(例えば、中小やベンチャー等)には、取りっぱぐれがないように一括方式を提案し、

 

将来の売り上げ増が期待できる会社(大手)には、ランニング方式を提案するのが常套手段である。

 

従って、その答えによって、契約した相手が、大手なのか、それとも中小なのかの推測が出来る。

 

彼等の答えは、「契約は、一括方式。日本の企業ではない。」とのことであった。

 

私は、心の中で、大手企業との契約はまだのようだ、急ぐ必要はない、と思った。

 

しばし話題をそらして世間話をした後、帰り際に

 

「特許の成立過程に大きな疑問があり、現時点では高額のライセンス料を払う価値を見いだせず、非常に悩ましい限りだ。」と、笑いながら話してみた。

 

これに対して、相手から

 

「特許には自信を持っている。早く契約した方が痛みは少ないはずだ。」と、脅しともとれる答えが戻ってきたので、

 

「今日、ここで特許論争をするつもりはないし、契約の話をするつもりもない。しかし、自慢の特許が、使い物にならなくなったら大変でしょうね。」と言って別れた。

 

今回の訪問の成果は、契約したのが大手ではないこと、そして、早く金を欲しがっていること、が推測できたことであった。

 

さて、先に訴訟を打つべきか、それとも相手に打たせるべきか、帰りの飛行機の中であれこれ考えながら成田へと向かった。

 

しかし、日本へ戻って2日後、なんと状況は一変し、止む無く作戦変更せざるを得ない事態に陥ったのである。

 

(結末は、次回)

 

それでは、また。

 

★ 編集後記

 

初めてロサンゼルスに行った時、芝生の緑の色が日本とは全然違うことにびっくりしました。

 

とにかく、明るくて鮮やかな色でした。緑色は、安心・安定・調和を表わす色だと言われています。

 

でも、残念ながらアメリカ出張でそんな気分を味わったことは一度もありません。(苦笑)

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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