━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第37号 ━━
(前号の続き)
A社に立ち向かう作戦・・・
それは、かつてない全面戦争である。
会議室に部下を集め、A社からのプレゼン内容を一通り説明した後、私は次のような指示を出した。
「今日から2ヶ月間で、A社対抗特許を50件揃えたい。必ず50件、いや出来れば60件以上見つけ出したい。
作業内容は、次のとおり。
Aランク:A社が現在使用している特許
Bランク:現在使用している可能性のある特許
Cランク:将来使用する可能性のある特許
Dランク:請求項(クレーム)の文字数が少ない特許
ただし、特許を見て判断に迷うものは、候補に入れておくこと。
A社に関する企業情報の収集(事業戦略、研究・技術報告、
製品売上高、マーケット情報、アライアンス、訴訟関連情報、
・・・等々)
毎週金曜日に、進捗会議で状況を共有し合うこと。
残業規制は気にしなくてもいいから、とにかく全力で作業してもらいたい。」
調査対象の特許は2万件を優に超えている。
日頃の有効特許マイニングのおかげで、ある程度の整理はできているものの、最近の製品を証拠ベースで解析するとなると、また、一からの作業が必要になる。
部員にかかる負荷が相当なものであることは間違いない。しかし、それでもやらなければならなかった。
過酷な日々が続いた後、ようやく70件の特許を候補として抽出することができた。
その中から、強力そうな特許50件を選定した。その内訳は、
Aランク:12件、Bランク:18件、Cランク:15件、そして、Dランク:5件 である。
早速、相手に提示するリストの作成に取りかかった。作成にあたり、敢えてランクは伏せておくことにした。
その代り、各特許番号の横に、証拠資料や証拠データの名称を記載し、全ての証拠をリストに添付して渡すことにした。
ここで、姑息な手段と言われるかも知れないが、リストの順番として上の方にはBランクの特許を配置し、最も強力なAランクの特許はその下の方にバラして配置するようにした。
これは、相手との最初の戦いで出す武器を2番手の武器とし、これで少しでも相手に白旗を上げさせることが出来ればその後の戦いが有利になると考えたからである。
最初に得意技を見せてしまえば、その後はゆとりを持って戦える安心感を相手に与えてしまうという危険性もある。
しかし、本当の狙いは、時間稼ぎにあった。
交渉期間が3ヶ月とは短すぎる。全面戦争するにはもっともっと時間が必要である。
でなければ、相手の特許に十分応戦する時間がとれなくなってしまうからだ。
今回の交渉のポイントは、相手が嫌がるまでトコトン議論を戦わす長期戦に持ち込むことなのだ。
そのためには、反論材料を探し出すための調査・検討の時間を確保する必要がある。
相手が痺れをきらして、仮に訴訟に突入したとしても、こちらにも4~5件は訴訟の武器となり得る特許があることは承知している。
相手が訴訟風を吹かせても恐くない。
議論の場が、ホテルか裁判所かだけの違いしかないのだ、そう自分に言い聞かせて作成したリストを相手に送った。
長期戦を選んだ作戦が、吉と出るか、それとも凶と出るか・・・
(次号に続く)
それでは、また。
★ 編集後記
どんなに素晴らしいと思った特許でも、細かく見てみるとどこかに2~3つの欠点があるものです。
登録することだけを意識して取った特許は、その欠点が命取りになることを痛いほど経験しました。
訴訟にも耐えられる特許って、本当に少ないですよ・・・(苦笑)