━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第46号 ━━
朝6時半、私は東京駅新幹線ホームで仲間を待っていた。
営業担当、技術担当、企画担当、併せて総勢12名で京都の大手ゲームメーカを訪問するためである。
事の発端は、5日前に当社の営業担当に入った一本の電話。
内容は、そのメーカが米国に輸出しているゲーム機の販売停止を求める書簡が届いた。
ゲーム機の米国特許侵害が原因で、一か月以内に販売を停止しなければITC(国際貿易委員会)に輸入差止めの申立を行うとのこと。
メーカの調査では、侵害の直接の原因は、当社が納入している製品にあるらしい。
そこで、急ぎ当社の見解を聞きたいということであった。
我々は、急いで特許と製品の関係を調べた。その結果を説明するのが、訪問の目的である。
京都駅に着くと、数台のタクシーに分かれて訪問先へと向かった。
秋の京都は色彩豊かでとても趣があるが、そんな景色を眺める余裕もなく、
私は、頭の中で説明の手順を整理していた。
タクシーを降りると、古びた工場のような佇まいの建物を目にした。このメーカへの訪問が今回初めての私にとって、目の前の古びた社屋は異様に見えた。
急成長を遂げ、驚くほどの利益を叩き出している会社とはとても思えない倉庫のような外壁である。
しかし、社内に入ると情景はまるで違っていた。厚張りの絨毯が敷き詰められた大会議室には、
片側に15人はゆったりと座れるような、長さ20m、幅3mはあると思われる
大きなテーブルが鎮座していた。
しかも、そのテーブルはどこにも継ぎ目のない一枚板で出来ている。
呆気にとられた私は、思わず、「このテーブル、どうやって会議室の中に
入れたんですか?」と聞いてしまった。
すると、案内してくれた社員の人は、
「テーブルを入れたのではなく、テーブルを置いた後会議室を作ったんですよ。」
と、いとも簡単に答えを与えてくれた。
確かに・・・、言われてみればその通りだ。
窓もそんなに大きくはないし、ドアも広いわけではない。どう考えても、外から入れるのは無理だし、部屋の中で組み立てることも到底不可能だ。
なるほど、これがソフトウェア的発想なのか!!
ハードウェアしか頭にない我々は、皆愕然とした顔で感心し合った。
既成概念にとらわれ、その中でしか思考回路が働かない人間は、言われてみれば当たり前のことでも、言われなければ、気付く術がないのだ。
初っ端から頭をガツンと殴られた私は、次に控える会議の場で、どんな衝撃を受けるのか、強い不安に襲われた。
今回の特許侵害事件は、解決が難しいとされている「直接侵害と間接侵害」の問題を避けては通れないのだ。
しかも、相手は最大手の顧客である。
どう拝み倒しても、「そちらで何とかして下さい」という道理が通る訳がない。
心の平静さを取り戻せないまま、相手の大集団が入室して来た。
窓口担当の技術部長を先頭に、役員や米国の顧問弁護士、法務担当に営業担当、経理担当まで顔を揃えていた。
ざっと30名を超える大会議が始まろうとしている。
思考回路の異なる者同士・・・
果たして、解決の糸口はつかめるのだろうか?
全員が着席しても、まだテーブルには余裕があった。
(次回へ)
それでは、また。
★ 編集後記
先日、会社をリタイアして初めてセミナーを開催しました。
お忙しい中、18時からの開講にご出席賜り、熱心に耳を傾けて頂いたことに感謝いたします。
メールでの情報発信では今一つ反応が分りづらいのですが、やはりフェイス・ツー・フェイスだと直に、かつタイムリーに伝わって来るのが有難いですね。
これからも公開セミナー等、直に接する機会を増やしていきたいと思っています。