━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第47号 ━━
(前号の続き)
重苦しい雰囲気の中で、会議は始まった。
問題の特許は、色に濃淡を持たせるための特殊な回路に関する米国特許である。
(ここ数年訴訟等で話題の3DS特許よりもかなり前の発明で、3次元画像処理の走りとでも言うべき特許である。)
特許の主要部を構成する回路が当社製品の中に入っている、というのが先方の主張だ。
確かに当社が開発した製品には違いない。しかし、先方の要求で追加修正が加えられ、他社には販売出来ないカスタマイズされた製品なのである。
従って、どちらに責任があるかを判断するには、この「追加・修正がなされた部分」が肝となる。
この点に十分注意を払いながら説明していく必要がある。
侵害責任の見解を求められた私は、
「責任論の前に、まずは当社製品も含めてゲーム機全体と特許との関係を明確化し、侵害の事実があるか否かを議論させていただきたい。」と述べた。
そして、予め用意しておいた調査結果の資料を配り、侵害の有無についての説明を始めた。
どんな特許であっても100点満点はあり得ない。叩けば必ず一つや二つの埃は出るものだ。
何故なら、特許は「人」が書いたものだし、また、「技術」は進化し続けるものだから。
これが、私の持論である。
私は、まず、本件特許の技術思想(発明者がやりたかったこと)から入ることにした。
「この特許は、色に濃淡を持たせることで遠近感を出し、それによって画像を立体的に見せようとすることが狙いである。
そして、当社の製品には、この色に濃淡を持たせる機能が御社の要求により盛り込まれている。
そこで、一つお尋ねしたい。
御社は、画像を立体的に見せるためにこの機能を要求されたのか?」
これに対して、彼等の答えは、
「立体を意識したものではなく、配色に多様性を持たせることを意図して要求したものだ。」とのことであった。
そして、実際の画像をモニターで見せてくれた。
そこには、市松模様に並べられた複数の四角形が多様な配色で映し出されていた。
これまで、一色につき3段階でしか表現できなかったのに対して、8段階まで濃淡をつけることが出来るようになったとのこと。
実際のゲームでは、主人公が色々な所を移動する際(例えば、暗い所や明るい所、森の中や水の中)、着ている服の色を環境に合わせて変化させるために、この機能が使われていると教えてくれた。
ゲーム画像を見る限り、主人公が歩き回っても来ている服全体の色が変化するだけで、立体感があるようには見られない。
これを見て、私は思い描いていた非侵害の根拠に強い自信を持った。
そこで、資料を参考にして、
「この特許は、本来同一色で表わされる部分に対し、そこに濃淡を付けることで立体感を出そうとするものである。
これに対し、御社のゲーム機は同一色で表わされるべき部分(例えば、主人公の服の色)全体の色が変化するだけで、3次元的立体感は見られず2次元画像なままであるから、特許を使っているとは言えないのではないか。
特許請求範囲の文言は、確かに御社のゲーム機と酷似しているように見えるが、
『at least a part of said same area』
(前記同じ領域の少なくとも一部)
という記載が決定的な非侵害の根拠になるのではないかと考える。」と、説明した。
しばらく考えながら資料を眺めていた米国の特許弁護士が、私を見て、こう言った。
(次号へ続く)
それでは、また。
★ 編集後記
発明者でもない私が、特許明細書を作る時、いつも注意している
ことは、この発明者は次にどんな発明をするだろうかと予想する
ことです。
それによって、今書いている発明を更に発展・拡張することができ、
より広い権利を手に入れることができます。
皆さんも、一度お試しあれ!!