知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

「特許」に教えられたこと(その1) 二つ先を見よ!:第50号

2014年11月17日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第50号 ━━

 

先日、37年ぶりに母校を訪れ、就活生向けセミナーを開催する機会を得た。

 

『これからの企業に求められる人財とは!』と題して、就職の心構えについて話をさせてもらった。

 

そこで学生の皆さんに伝えたかったことは、「入口を探すな、出口を見よ!」ということである。

 

換言すれば、『目標は二つ先に置いて欲しい』ということだ。

 

以前、このメルマガでも書いたことがあった。2番を抜いても1番にはなれない・・・と。

 

しかし、2番を抜くためには、2番の背中を見て走っていてもなかなか抜けるものではない。

 

その先の1番の背中を追うことが、2番を追い抜く秘訣なのだ。

 

そう、目の前の目標をクリアするには、さらにその一つ先の目標に照準を定めること。これが、大事なのである。

 

昔、月間特許出願ランキングを公表して、各部門を競わせたことがあった。

 

その中に、技術者の数も多く先端技術の開発を担当する部署があった。

 

しかし、その部署はいつもランキング3位に甘んじていた。そこで、部署を統括する部長に何故いつも3位なのだ、と聞いてみた所、彼は、

 

「いや、違うんだ。2位を目指して目標設定しているが、残念ながらいつも一歩届かない。悔しい限りだ。」と答えてくれた。そこで、

 

「じゃあ、いっそのこと2位ではなく1位の部署と同じ目標にしてみたらどうか?」と云って、敢えて高い目標にした所、

 

次月の実績は、なんと2位を楽に追い越して1位に迫る結果を出したのだった。

 

剣豪・宮本武蔵は、その著書「五輪書」の中で、『遠きにあるものを近くに見、近きにあるものを遠くに見る。』これが勝負に勝つ秘訣であると説いている。

 

人は、目の前に見える目標に対して、これを何とか早くクリアしようと却って焦ってしまい、些細な点ばかりが気になり、しなくてもよい苦労に悩まされるものだ。

 

近きにあるものを遠くに見ることで、自分がしなければならないことの本質が見えてくる。この本質を見失わないようにすることが大切なのである。

 

ゲームや競技ならば、二つ先の目標は自分の目に映っているから比較的分かり易い。

 

しかし、人生設計においては、先の先まで見通すのはなかなか難しい。

 

では、二つ先を見えるようにするには、どうすれば良いか!

答えは、『消しゴム』に聞いてみたい。

 

消しゴムは、何のためにあるのか?

 

それは、間違った字を消すためにある。これが、消しゴムにとっての目の前の目標である。

 

しかし、目の前の目標だけに捉われていたのでは、「消す」という概念から離れることは出来ない。

 

そこで、もう一歩深掘りしてみよう。何故(何のために)消すのか?

 

そう考えて初めて「修正」という消しゴムに与えられた目標の本質に辿りつくことができる。

 

そして、「消す」から「修正する」へと概念が拡がった時、やるべきことの選択肢も拡がるのである。

 

敢えて消さなくても、正しい字が書けるようにすればよいのではないかと・・・。

 

そうやって、生まれたのが世界中で大人気の「修正テープ」だそうだ。

 

今、目の前にある目標に対して、「何故(何のために)」を問いかけてみること。

 

これが、二つ先にある目標を見つけるのには有効である。

『二つ先を見る』・・・私は、このことを特許から教えてもらった。

 

それでは、また。

 

★ 編集後記

 

何故、何のために? を自問自答して、その先にある本質を探り当てる

のは、目標設定だけでなく、創造力を働かせるのにも効果的です。

 

「消す」という概念だけでは、「きれいに消す」とか「紙を破らない

ように消す」といった消しゴムの欠点だけに目を奪われてしまいがち

ですが、「修正」という概念に気付くことで全く逆転の発想が生まれ

てきます。

 

「二つ先を見る」ことは、技術開発においても事業経営においても、

とても大事な事だと思います。

 

目先のことだけに気を取られないよう常に心がけていきたいものです。

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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