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サムスン(三星)vs.エヌビディア(NVIDIA)・・・訴訟合戦の謎!? お客様を訴える真相とは:第52号

2014年12月1日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第52号 ━━

 

つい先日のこと。ロイター報道で、

 

『韓国サムスン電子が米エヌビディアを逆提訴、特許侵害等で』

という記事を見た。

 

ことの発端は、米国の老舗グラフィックチップメーカのエヌビディア(NVIDIA)が、

 

携帯電話で有名な米国クアルコム(Qualcomm)社製のGPU(画像処理チップ)がエヌビディア特許を侵害しているとして、

 

クアルコム社製GPUを購入してスマホやタブレットに搭載し販売しているサムスンと、GPUを製造しているクアルコムを一緒に訴えたことに始まる(今年の9月)。

 

これに対し、サムスンは売られた喧嘩とばかりに、エヌビディアを訴え返したようである。

 

しかし、この訴訟、何かが変だ。

 

普通なら、GPUの製造メーカであるエヌビディアは、同じくGPUを製造しているクアルコムだけを訴えれば済む話である。

 

エヌビディアから見れば、サムスンはお客様のはず。

 

サプライヤが、クライアントを訴えるのは極めて稀だ。契約不履行なら理解できるが、訴因は特許侵害なのだ。

 

しかも、特許を直接的に侵害したのは、サムスンではなくクアルコムなのである。

 

それなのに、エヌビディアは、何故サムスンを訴えたのか!?

報道を見る限りは、実に不思議な訴訟に思えた。

 

特許権は、侵害品の「製造者・販売者・使用者」の誰に対しても行使できることにはなっている。

 

しかし、普通は自分のお客様にあたる会社を訴えて、敢えて恨みを買うようなバカなことはしないはず。

 

そこで、何かの間違いではと思い、エヌビディアがデラウエア地裁に提訴した訴状を見てみたが、

 

被告の筆頭はクアルコムではなく、やはりサムスンになっていた。クアルコムは、最後の方に付け足しのような格好で載っているだけ。

 

確かに、エヌビディアのターゲットは、クアルコムではなくサムスンに向けられているようだ。

 

部品製造メーカのエヌビディアと、部品購入メーカのサムスンとの間に、一体何があったのだろうか・・・!?

 

事の真相は、まだ明らかにされていないので、飽く迄も推測の域を出ないのだが、

 

訴状によると、エヌビディアは2年前の2012年からGPUに関する特許ライセンス交渉をサムスンに対して行っていたようだ。

 

しかし、サムスンは、問題のGPUは自分達が作ったものではなくクアルコムから買ったものだ、との主張を繰り返し、ライセンスを拒否し続けたらしい。

(このことは、記事でも報じられている。)

 

まあ、サムスンにして見れば、「俺に文句を言うのは筋違いだ。話合いならクアルコムとしてくれ。」と言いたくなるのは当然だろう。

 

確かに、サムスンも自社製GPU(Exynos)を製造しており、これがエヌビディアのGPUの競争相手となる訳だが、

 

エヌビディアが特許侵害で訴えたのは、サムスン製GPUではなくクアルコム製GPUだから、訳が分からない。

 

特許権者が、製造者でも販売者でもなく、使用者を訴えるのは、

1) 使用者が採用している製品を無理にでも自分の製品に切り替え(リプレース)させたい時。

 

そして、もう一つ、

 

2) 使用者が採用している製品の製造者にプレッシャーをかけたい時。

 

の2つのケースが考えられる。

 

1)は、立場の弱い相手には通じるが、却って相手の怒りをかう恐れがあるので、余程のことが無い限り、むやみに使うことはあり得ない。

 

一方、2)は、製造者に圧力をかける点では効果があるかも知れないが、やはり使用者に嫌われるデメリットの方が大きいため、

 

個人発明家や全く製品を製造していない者(パテントトロールのような、お客に恨みを買っても損をしない人達)しか使わない作戦である。

 

そう考えると、この訴訟のカギは、2年前にエヌビディアがサムスンにライセンス交渉を仕掛けた理由にありそうだ。

 

今回の訴訟合戦の背後には、アップルという黒幕が見え隠れしているように映るのは、私だけだろうか・・・!?

 

次号で、その謎解きに挑戦してみたい。

それでは、また。

 

★ 編集後記

 

エヌビディアという会社は、私がパソコンの仕事をしていた時お付き合いの有った会社です。

 

技術力も高く、紳士的な会社というイメージがあります。

その会社が、一体何故・・・???

 

もうしばらく考えてみたいと思います。

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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