知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

猫のように姿を変えながら落ちるスマホ 夢を忘れていませんか?:第54号

2014年12月15日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第54号 ━━

 

数日前のニュース。

 

落下したiphoneが勝手に空中で向きを変えながら着地するというアップル社の発明が米国で特許になった、と報じられていた。

 

米国特許(8,903,519号)として成立したこの発明は、今から丁度3年3ヶ月前の2011年9月16日に出願されたものだった。

 

誤ってスマホを落としても、画面やカメラへの衝撃ダメージが最小限になるように、落下速度や着地までの時間を瞬時に計算してバイブレータを使って落下の角度を変えるものらしい。

 

落下時にイヤホーンを自動的に取り外す機能や、時にはプロペラを使って衝撃を緩和するアイデアまで書かかれているという。

 

スマホを使う側にとっては、興味を惹く面白い特許だ。

 

大切な食器を落として偶然割れずに済んだ時、「奇跡だ!」とか「今日は運がいい。」とか思った人も多いはず。

 

アップルの特許は、まさにこの「奇跡や運」を呼び寄せる特許と云ってもいいのではないだろうか。

 

実に、アメリカ人らしいアイデアの発想と云える。

 

これが日本人なら、落下しても割れないような強い強度のガラスを選ぶとか、衝撃に耐えうるカメラの構造にする、といった発想になるのだが・・・。

 

画面やカメラを衝撃から守るという点では、どちらも同じなのかも知れないが、

アップル特許には、何か「夢」が感じられる。

 

ただ、この報道を見て私が最初に思ったのは、携帯電話の保証書の内容だった。

 

どのメーカの保証書にも、「たとえ無償修理期間中であっても過失による破損は有償となります」との注意書きが付いている。

 

これは、わざと壊して新品との交換を迫る悪質使用者に対する企業側の防衛策としては正しいと思うのだが、

 

ふとした拍子に誤って落としてしまったり、自分の意に反して落ちてしまったりする気の毒なケースも多いことだろう。

 

過失は自己責任、使用者過失の面倒までは見きれないという会社に、

 

果たしてアップル特許のようなアイデアの発想が出来るのだろうか・・・??

 

優れた性能や高い品質の商品を作りだす技術もさることながら、使用者の過失にまで気を配る技術にも大いに魅力を感じる。

 

日本にも使用者のことを考える技術者がいることは、長い会社生活の中で大勢見てきた。

 

しかし、彼等が提案するアイデアは、時期尚早だとか、そこまでは必要ないとか、今の技術では無理だとか、金がかかるとか言って否定されるケースの方が多いのもまた事実なのだ。

 

その結果、人を驚かせ、楽しませるような発想が極めて出にくい環境の中で開発を強いられる堅実な技術集団になってしまっているような気がする。

 

アップルのアイデアも、今すぐ実用化とまではいかないと思うが、しかし、環境が整っていないからといってお蔵入りにはさせないのがアメリカ流なのである。

 

アメリカという国は、いいアイデアが生まれたら必ず特許化しておくという習慣が昔からある。

 

ここが日本式経営と米国式経営との違いとも云える。

 

かつて、米国のアイデア特許に散々高い授業料を支払わされた日本の半導体業界。

 

しかし、その教訓が何も活かされないまま、相変わらず守りの経営に固執している限り、また同じように高額なお礼を米国に迫られるのではないかと思うと悔しい限りだ。

 

アメリカ流アイデアの発想の原点は、「夢」だと思う。

 

夢とは、空想の世界で描くものではなく、誰かのために何かしてやろうという現実の熱い想いで描くものだ。

 

そして、この熱い想いを実現させようとする経営者の強い理解に守られて「アメリカンドリーム」が誕生するのではないだろうか。

 

私は、この熱い想いで夢を描いてくれる技術者をこれからも精一杯応援していきたい。

 

そして、アメリカ流のアイデア特許に対抗できる日本流のアイデア特許の出現を期待して止まない。

 

それでは、また。

 

★ 編集後記

 

苦境になると守ることしか頭にない人は、きっと石橋を叩いて渡る人でしょう。

 

叩いても、橋を渡ることが出来るなら、苦境の出口を探し当てることも不可能ではないかも知れません。しかし、叩きすぎて自分で橋を壊してしまったら、二度と渡ることは叶いません。

 

叩くより、橋の向こうに夢を描いて見ませんか!

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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