━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第55号 ━━
こんにちは。 特許の仕事で散々苦しめられた愚禿の手記です。
韓国の中央日報は、「特許数同じのソウル大と東大、ロイヤルティ収入は大きな格差」と報じている。
昨年の特許出願件数(特許公開件数と思われるが・・)は、両大学ともに1055件と同数だが、企業から得たロイヤルティ収入は、東大が6億8600万円、
ソウル大は約2億6265万円で半分にも満たないらしい。
また、KAIST(科学技術研究の中心的役割を担う韓国の国立大学)とよく比較される東京工業大学は、
企業との共同研究を昨年だけでも440件も成功させ15億8000万円の研究費を誘致したのに対して、KAISTは共同研究が1件も無かったそうだ。
同日報によれば、この差は産学連携に対する大学TLOのスタフ活動の違いだと論じていた。
大学の研究成果を特許のロイヤルティ収入だけで論じるのにはいささか抵抗があるが、
ただ、この記事で印象深かったのは、東工大の高橋秀実特任教授(技術移転部門)の次の言葉である。
「先に技術を開発した後で一方的に企業に『買え』というのは効果的でない。最初に開発する時から企業と協力してこそ実用化を操り上げることができる。」
そう、特許は飾り物ではなく、実用化して初めてその真価を発揮するものだ。
いくら素晴らしい研究テーマでも、費用だけを与えて開発を丸投げしたのでは、実用に供する成果は期待出来ない。
研究所で開発成功した技術を量産工場に移管してもなかなか上手く行かない・・・
多くの技術者がこんな経験をしたはずだ。
これが、まさに開発と量産(実用化)のギャップなのである。
このギャップを埋めるために、研究者と技術者が初めて共同作業を開始する。
しかし、他社に遅れまいと焦りの方が先に立ち解決の糸口は見つからない。
それでも何とかしようと必死に考え出す策が、結果オーライの帳尻合わせ的な補修工事。
上手くいかない真の原因を見つけられないまま、目につく傷口の上塗り作業に陥ってしまう。
その結果が、市場での不良発生や事故を引き起こし、会社は謝罪会見に振り回されることになる。
原因が分からない以上、まともな会見を開くことなど出来ないから自己弁護的な対応で、
ますますマスコミを煽ってしまうことになり、憶測報道や批判報道が飛び出し、会社は窮地に追い込まれる。
最終的にはどの会社も「コンプライアンスを強化して再発防止に努めます」と、判で押したようなお詫びをする羽目になる。
しかも、ほとんどの会社がコンプライアンス強化のために、チェック機能の強化増強に乗り出すのである。
こうなると、従業員はチェック作業に振り回されて開発・生産の効率が著しく低下し、負のスパイラル(悪循環)に嵌まってしまう。
不祥事を起こした企業の多くが再生出来ないでいる理由は、まさにここに原因があるのではないだろうか。
開発と実用化を区切っているようでは、同じ失敗の繰り返しとなるだろう。
韓国企業の弱点は、各部を統括する部門長が共同を嫌うセクショナリズムにあると私は考えている。
事業運営とは、各部署を点と点で結ぶのではなく、出来るだけ小さな共同体制の円の中にまとめ入れること。加えて、その管理は出来るだけ源流で行うこと。
技術開発もコンプライアンスも、皆同じなのである。
「共同」して「共創」する。
不良や事故を回避するには、もっともっと「共同開発」を推し進めていくことを推奨したい。
そして、そこに本当に役に立つ偉大な特許の種も隠れているのだ。
それでは、また。
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★ 編集後記
「針のない注射器」が開発されたようです。
利害関係の垣根を越えて全ての関係者が共同して、一刻も早く 実用化を達成して欲しいと願いたいですね。