知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

日清食品vs.サンヨー食品の特許戦争 「サッポロ一番」が「どん兵衛」に負けた原因を探る:第61号

2015年2月16日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第61号 ━━

 

カップ麺の横綱・日清食品(どん兵衛)が、袋麺の横綱・サンヨー食品(サッポロ一番)を特許侵害で大阪地裁に提訴したのが2012年の12月だった。

 

それから約2年が経った先月、両社が和解したとの報道がなされた。

 

そもそも訴因は、日清食品が持っているストレート麺の特許が、サンヨー食品の即席麺(カップ焼きそば等)11品目に勝手に使われているというもの。

 

報道によると、日清は約2億6600万円の過去分損害賠償請求と、将来分の製造・販売の差止めを求めていたらしい。

 

これだけを見る限り、ごくごく一般的な特許侵害事件といえる。しかし、筆者が違和感を覚えたのは、その和解の内容だった。

 

報道によると、和解成立の理由は、「日清の訴えの一部をサンヨーが受け入れ、昨年(2014年)9月から製法を変えたため」とのこと。

この報道が正確であるならば、サンヨーは判決を待たずして特許回避策を採ったことになる。

 

何故、回避したのか・・・・?????

 

判決前に回避するのは、侵害を自らが認めたようなものだ。訴訟において極めて自分に不利な状況を敢えて作り出したと言っても過言ではない。

 

だったら、何のための訴訟だったのか!

 

提訴したのが日清側の方だとしても、受けて立ったのは他ならぬサンヨーのはず。

 

しかも、訴訟に入る前の約1年間で計8回もの交渉を重ねていたそうだ。

回避するなら、この交渉期間中にいくらでもチャンスはあったはずだ。

 

考えられるのは、裁判の最中、よほど不利な証拠が見つかったか、あるいは、将来分の製造・販売の差止めに恐れをなしたか・・・

 

それにしても、訴訟途中での回避はあり得ないだろう。

 

差止めを危惧するのであれば、水面下で秘密裏に回避策を練っておき、万が一負けても判決後にすぐに切り換えられるよう事前準備しておくのが戦術というもの。

 

不思議に思って、ネット情報を色々垣間見たところ、次のような事実が判明した。

 

日清のストレート麺の特許出願は2009年2月で、登録は同年10月。

 

一方、サンヨーも2011年2月にストレート麺に関する自社特許を出願し、同年11月にそれが登録されている。

 

特許の出願は、サンヨーが丁度2年遅れていることになる。

 

そして、サンヨーがストレート麺を商品化し始めたのは、自社特許を出願してから3ヶ月後らしい。

 

日清もサンヨーも大手の食品メーカだから、それぞれ立派な知財部門をかかえている。

 

従って、この流れから見えてくることは、

 

・サンヨーは日清のストレート麺と特許を調べた上で自社特許

を出願したはずだということ。そして、

 

・日清特許との違いを特許庁が認め、サンヨー特許は登録され

たということ。

 

即ち、後発参入したサンヨーは、先発の日清のストレート麺とその特許を十分に研究した上で、独自の特許技術を開発して商品化に踏み切ったものと推測できる。

 

日清対策は万全のはずだった。にもかかわらず、裁判の途中で製法を変更せざるを得なかったのは何故か?

 

特許は出したものの、実際は自分の特許ではなく日清の特許を使って商品化していた・・・

 

いや、サンヨーともあろう会社が、それはあり得ないだろう。だとすれば、残るは一つ。

 

日清特許への対策が甘かったのではないだろうか。

 

事前に上手く逃げたつもりが、訴訟になってボロが出てきたとか。よくある話だ。

 

実は、企業の知財部門には、大きな落とし穴があるのだ。

 

その落とし穴とは・・・(次回へ)。

 

それでは、また。

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★ 編集後記

 

消費者が最初に目にするものは、機能ではなくデザインです。

そのデザインの力が、購買意欲を大きく左右するのです。

 

キッコーマンの卓上しょうゆ瓶は、フランスでも長年使われ

親しまれているそうです。意匠の力は、決して侮れません。

 

日本が世界に誇る工業デザイナー・栄久庵憲司氏のご冥福を

心からお祈り申し上げます(合掌)。

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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