知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

ノンアルビール戦争・・・得するのは、誰!? サントリー、アサヒ、それとも・・・:第65号

2015年3月16日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第65号 ━━

 

先日、サントリーとアサヒが、ノンアルコールビールの特許を巡って法廷闘争しているとの報道があった。

 

ノンアルコールの分野では、サントリーとアサヒだけで日本全体シェアの約8割を占めているらしい。まさに、両巨頭の直接対決だ。

サントリーの『オールフリー』が勝つか、それともアサヒの『ドライゼロ』が勝つか・・・ 実に、興味深い。

 

因みに、2014年売上では、オールフリーが720万ケース、ドライゼロが630万ケース、僅差らしい。

 

ところで、ノンアルコールビールの製造には、いくつかの方法があるようだ。

 

普通のビールを造った後でアルコール分を抜く方法や、麦汁をベースに酵母菌を使わずに造る方法、あるいは、麦汁ではなく麦芽エキスを使う方法など。

 

報道によれば、サントリーもアサヒも、ともに麦芽エキスを使う方法を採用しており、ここでバッティングが生じたらしい。

 

シェア8割を占める両社が、どちらも麦芽エキスを採用しているということは、この方法が一番ビールテイストに合うということだろうか?

 

特許侵害というならば、味も似ているのかと思い、試しに飲み比べてみたが、一口飲んだだけで味の違いはよくわかった。

 

消費者から見れば、何も裁判まで起こして世間を騒がせるほど似ているとは思えないような気もするのだが・・・。

 

しかし、1位と2位は、何故こうも争いたがるのだろうか。

 

まるで、アップルとサムソンのスマホ戦争のビール版を見ているかのようだ。

 

スマホ戦争は、いまだに泥仕合を演じているようだが、昨年10月~12月の売上シェアでは、

 

1位のサムソンが23.8%(前年同期比:8.7%減)で、

2位のアップルも12.0%(同:0.9%減)だそうだ。

 

両社が共にシェアを落とす中で、中国のシャオミが前年同期比211.3%増で、3位に躍り出た。

 

同じく、中国のレノボも38.0%増で4位にランクされている。

 

そう、トップ2の争いで得をするのは、3位以下のグループなのだ。

 

かつて、国をあげて熾烈な争いを強いられた日本と米国の半導体戦争でも、結局笑ったのは当時3位の韓国だった。

 

「歴史は繰り返される」の言葉通り、ノンアル業界でも、サッポロやキリンが、サントリーとアサヒの2大巨頭を追い抜くチャンスなのかも知れない。

 

それにしても、今回の裁判におけるアサヒの戦い方はどうにもいただけない。

 

『非侵害』ではなく、『特許無効』で争う構えのようだ。

 

しかも、サントリー特許と同一の確かな証拠も持たずに、ただ従来製法から容易類推可能との主張で戦うらしい。

 

おまけに、「特許無効審判は、現在検討中」とのこと。裁判の進行を遅らせるための時間稼ぎ作戦のようだ。

 

法廷で争うほど特許無効化に自信があるのなら、何も裁判にまで持ち込まなくても、交渉の段階でさっさと審判請求すれば良かったものを・・・。

 

なんとも、作戦自体がチグハグな気もするが、アサヒには、一体どんな秘策があるのだろうか?

 

ともあれ、この裁判は、「サントリーの攻め」対「アサヒの守り」という構図で展開しそうだ。

 

筆者としては、どちらが勝つかよりも、この2社を抜くのはどの会社なのかに興味がある。

 

知財戦略で最も効果的な戦略は、孫子の兵法でいう「戦わずして勝つ」戦略である。

 

そして、それは交渉時に使う方が効き目は大きい。

サントリーもアサヒも、サムソンやアップルと同じように特許だけに気を取られて、肝心のビジネスを見失った交渉しか出来なかったのではないだろうか。

 

サントリーさんとアサヒさん、どちらも相手方しか見えていないようですが、

そっと後ろから忍び寄る影にもご用心を!

 

 

それでは、また。

 

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★ 編集後記

 

特許交渉の場には、知財部と技術部の人だけでなく営業部の人を同席させることをお薦めします。

 

その方が、互いの意地の張り合いにならずに、より広い視野でビジネス全体を判断することが

出来るからです。

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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