知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

異議申立制度、復活!! その影響を問う:第67号

2015年4月6日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第67号 ━━

 

いよいよ今月1日から特許異議申立制度が復活した。

 

本メルマガ(第19号)で、異議申立制度の復活について、私見を述べさせて頂いたが、

 

個人的には、特許庁が許した特許を取り消す制度としては、無効審判制度があれば十分だと思っている。

 

その昔、公告特許に対する異議申立が可能であった時代、かなりの数の意義申立を処理した経験がある。

 

申し立てる方も、申し立てられる方も、どちらも。

 

しかし、それには次の2つの理由があった。

 

一つ目は、企業間での特許クロスライセンスが多かったこと、そして、二つ目は、大量生産時代であったこと、である。

 

「クロスライセンス」と「大量生産」、この2つの言葉の意味するところは、特許は数で勝負する時代だったということである。

 

クロスライセンスとは、競合する企業間で互いの特許を自由に使い合える契約を結ぶことである。

 

相手企業の特許を気にすることなく開発に専念できるので、企業の安定成長には有効な手段といえる。

 

しかし、互いの特許を自由に使い合えるとは言っても、片方の企業が得して、片方の企業が損をするようでは、クロスライセンスは成り立たない。

 

従って、互いの特許ポテンシャルを評価して、低い方から高い方にその差分を埋め合わせるための金を払う、いわゆるバランスペイメントと呼ばれる方式を採用する企業が多かった。

 

この場合、当然ながら特許保有件数が多い企業の方が断然有利である。

 

従って、クロス相手となる企業の特許を1件でも減らしておこうと、さかんに異議申立を行ったものだ。

 

そして、もう一つの理由の「大量生産」、これは、1件の特許が与える影響が大きいということである。

 

侵害の対象が、限られた一部の製品ではなく、全製品に及ぶとなると、そのインパクトは非常に大きい。よって、

 

そのような特許は、必死に証拠を探し出して、きちんと始末しておかなければ後々大変なことになるのだ。

 

誰が申し立てをしたか相手に悟られないように、会社の名前を伏せて異議申立したことも度々あった。

 

この様に、昔は、クロスライセンスと大量生産への対抗手段として、異議申立制度は有効なものだったと云える。

 

しかし、今の時代は果たしてどうだろうか?

 

ソフトウェア技術の進歩と海外勢の攻勢で、消費者ニーズが変化しており、

 

誰もが持っている物よりも、自分しか持っていない物への拘りの方が大きくなっているようだ。

 

そうなると、少品種大量生産ではなく多品種少量生産のほうに舵切りをせざるを得なくなってしまい、

 

特許1件の威力も昔に比べて小さくなっていると言わざるを得ない。

 

特許を潰すコストより、侵害を見つけるコストの方が高くつくと云っても過言ではないはず。

 

そんな時代に異議申立がどれほど必要なのだろうか!

 

「制度」というものは、誰かの都合や何かの都合で変えるものではなく、世の中の変化に合わせるべきものだと思う。

 

制度改訂にあたっては、有識者懇談会や政府委員会等で意見を求めるとアナウンスはしているものの、日本という国は、的外れの政策が目立って仕方がない。

 

異議申立で下手にちょっかいを出したがために、却って藪蛇をつつくことにならないよう注意しなければ・・・

 

そう云えば、異議申立の活用で最も成果があったのは、自分の特許に自分で異議を申し立てることであった。

 

変だと思われるかもしれないが、事実なのだ。

 

相手の製品がより確実に侵害していると解釈できるように、自分の特許の請求項を修正するための手続き補正や特許分割の機会を得るためである。

 

言葉尻を捉えて非侵害と主張され、上手の手から水が漏れないようにしておくことで、侵害紛争を悪戯に長引かせないようにするのが狙いである。

 

しかし、今となっては、補正可能な範囲が大きく制限されたため、このような作戦も無意味なのかも知れないが・・・(苦笑)

 

 

それでは、また。

 

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★ 編集後記

 

異議申立は、裏を返せば特許庁の調査能力を暴露するようなものです。

 

潰れなければ特許庁の勝ち!

でも、潰れた時は特許庁の負け。しかも、使われた証拠資料が特許だった場合は、悲惨・・・

 

昇進なんか気にしないで、堂々とした審査を続けて下さい。

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。