知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

故・勘三郎さんを偲んで・・・ 記憶に残る技術者との会話:第68号

2015年4月13日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第68号 ━━

 

歌舞伎界の風雲児、故・中村勘三郎さんが平成中村座を旗揚げして、ニューヨーク公演を成功させたのが10年前。

 

当時、勘三郎さんにインタビューした時の記事を目にした。

 

歌舞伎にエレキギターを取り入れるという画期的な公演をやってのけたことについての質問に、

 

勘三郎さんは、このように答えたらしい。

 

『江戸時代にエレキがあったら、使ってるっつーの!』

 

さすが、長年守り続けられてきた日本の伝統芸能に新風を巻き起こした革命児ならではの答えだと感じ入った次第である。

 

そう云えば、このところ、猫も杓子も使っている言葉に、「イノベーション」というのがある。

 

ブリタニカ国際大百科事典によればイノベーションとは、

 

「シュンペーターの経済発展論の中心的な概念で、生産を拡大するために労働、土地などの生産要素の組合わせを変化させたり、新たな生産要素を導入したりする企業家の行為をいい、革新または新機軸と訳されている。」とある。

 

実は、もう20年以上も前、IC(半導体集積回路)が「産業の米」として急成長していた頃、知財部に日々上がってくる多種多様で難解な技術が記載された発明に悲鳴を上げていた折、

 

ある天才的な頭脳を持つ技術者とこんな会話をした。

 

「ICって、一体何なの?」

彼、曰く「ICは、アート(art)だよ。」

 

ICを技術ではなく、芸術の世界で捉えている彼の言葉に、私は大きな驚きを覚えた。

 

ICには無限の可能性があるはずだ。しかし、これを今の技術で捉えると限界が見える。

 

だから、技術ではなく芸術と捉えてその可能性を拡大し続けなければならない。さもなければ、技術も発展しないだろう。

 

彼の答えを、そう理解した。

 

私は、イノベーションを「現状打破」と訳したい。

 

新しい発想をするのに、古きを訪ねるも良し、未来を想像するも良し。

 

しかし、肝心なのは、今を離れなければ「新しさ」は決して生まれてこないだろう。

 

イノベーションを謳っている多くの会社でイノベーションが生まれないのは、何故か?

 

思うに、現状を打破できないからではないかと。

 

そして、打破出来ないでいるのは、技術者ではなく経営者のようだ。

 

経営難に見舞われている会社にこそイノベーションが必要なのかも知れないが、経営難だからこそ今を離れるのも難しいのだろう。

 

技術にイノベーションを求めるのであれば、その前に経営にイノベーションを求めるべきではないだろうか。

 

勘三郎さんのような人が経営陣にいれば、きっと素晴らしいイノベーションが出来るのだと思う。

 

関西でも関東でも大手企業が苦しんでいる姿を見て、その会社のHPを覗くと、

 

必ずと言っていい程、「技術のイノベーション」という単語が出て来るが、

 

真に必要なのは、『経営を芸術と捉える』姿勢なのかも知れない。

 

勘三郎さんを偲んで、そんなことを考えてみた。

 

 

それでは、また。

 

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★ 編集後記

 

アメリカで特許交渉の合間に、ボスのお誘いを受けてサンタフェ・オペラを観に行ったことがありました。

 

野外オペラなのにマイクなしで響き渡る声量には、正直度肝を抜かれました。

記憶に残るとても素晴らしいショーでした。

 

しかし、もっと驚いたのは、舞台の両側から本物の大きな竜巻が迫って来ていたことです。それでも観客は、何事もないかのように舞台に魅入っています。

 

さすがアメリカ、広~い国です。

 

そこで買った記念のTシャツは、今も愛用しています(笑)。

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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