━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第74号 ━━
他人の特許発明を理解する上で最も重要なことは、その発明者が何をしたのか!・・・ではなく、
何をしたかったのか! を正しく把握して、発明者の技術思想を読み取ることだ。
SIMM特許訴訟で敗訴を経験して得た大事な教訓の一つである。
発明者が何をしたかは、特許明細書の実施例(今は、「発明を実施するための形態」という項目になっているが)を読めば分かる。
しかし、『何をしたかったのか』は、発明の目的や効果だけを読んでも完全に把握することは出来ない。
特許明細書の出だしの「技術分野」から始まって、発明の「背景説明」を含め、最後の「産業上の利用可能性」に至るまで明細書の全体を大局的見地から捉えなければ、発明者の技術思想には辿り着けないのである。
そして、これは、特許の権利解釈の上でも、また特許無効を主張する上でも、極めて重要なことである。
前号で述べたSIMM特許を無効化するために行った公知資料調査で、
9個のメモリチップを横一列に並べ、マザーボードのプリント基板に抜き差しできるようにしたメモリモジュールに関する証拠は発見した。
そして、そこには、メモリモジュールをマザーボードに所定の角度で搭載するための支持部材も、
メモリチップの間に設けられたデカップリング用のコンデンサも、更には、9番目のメモリチップをエラーチェック用のメモリとして使うことまで、SIMM特許と全く同じ内容が記載されていた。
ただ一つ違っていたのは、「30本の端子」という点だけであった。
見つけた資料は、どれも端子数が「27本」だった。
当時、この種のメモリモジュールを使用するには、アドレス端子やデータ端子の他に、電源供給端子や制御信号端子等を含め、合計で27本の端子があれば十分であった。
SIMM特許の明細書にも、30本の端子のうち3本はNo internal connection pin すなわち、「空きピン」と記載されていた。
そして、この空きピンは「future use」と一言添えられているだけだった。
しかし、27本のピンだと不都合が生じるのであればまだしも、当時色々な分野で使用されていたメモリモジュールのピン数はどれも27ピンであった。
しかも、特許の目的がメモリを小スペースで実装可能にすることだと理解していたため、端子の数の差はそんなに重要なことではないと判断していた。
しかし、このことが陪審裁判で大きな仇となって返ってきてしまったのだった。
「3ピンの壁」を乗り越えられなかった悔しさと、陪審員裁判の恐さを、次号でお伝えしたい。
それでは、また。
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★ 編集後記
AKB48の総選挙をテレビで見ていて教えられました。
目に見える成果を本当の「成果」といい、目に見えない成果は「まだ、努力中」と呼ぶのだと。
彼女たちは、「和」の世界と「出世」の世界の中で本当に真剣に生きています。 見習わなければ!