知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

特許の独占権って、そんなにすごいの? 事業を知らずして、特許を語ることなかれ:第76号

2015年6月29日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第76号 ━━

 

『特許には独占権がある!』

 

恰好良くて、強そうな武器のように聞こえるが、果たして本当だろうか・・・?

 

特許のセミナーを聴くと、皆さんが口を揃えて特許の威力を熱く語っておられる。特許の効力は、『市場独占、参入障壁、競合排除、そして、投資回収である。』と。

 

法律的には、確かにその通りだ。しかし・・・

 

「市場が独占」できるのであれば、日本のお家芸だった半導体もパソコンも今のように衰退することはなかったであろう。

 

「参入障壁」が築けるのであれば、売上シェアNO.1をキープしていくことが出来たはずだ。

 

「競合が排除」できるのであれば、韓国や中国、台湾に追い抜かれることもなかったはず。

 

「投資が回収」できるなら、日本はリストラの苦しみを味わうこともなかったといえよう。

 

しかし、現状はどうか! 年間数万件を出願している企業でさえ、どれ一つとして上手くいったものはない。

 

こんなことを言ったら、「日本がこうなったのは、何も特許のせいだけじゃない。」と言われるかも知れないが・・・。

 

では、何故、特許を出す必要があるのか! 何のために特許を出しているか!

 

実際に事業を経験してきた者としては、独占権を振り翳すことの難しさをイヤというほど痛感した。

 

特許の権利を行使するには、それなりの人と金と物と時間が必要だし、その上必ず独占できるという保証はどこにもないからだ。

 

今の時代、独占なんて到底あり得ることではない。

 

じゃあ、金もないし、人もいないという企業は、一体どうすれば良いのか?

 

特許なんて出しても意味がない。こう思っている経営者も多いはずだ。

 

しかし、前号の編集後記にも書かせて頂いたが、『独占権』を独り占めするための権利と捉えるのではなく、

 

リーダであり続けるための権利だと考えれば、特許の活用にもっともっと幅が出てくるはずだ。

 

「市場を独占するのではなく、市場を開拓・拡大する。」

 

「参入障壁を作るのではなく、参入のルールを作る。」

 

「競合を排除するのではなく、競合に差をつける。」

 

「投資を回収するのではなく、利益を確保する。」

 

このように見方を変えるだけで、今までとは違った特許の使い途が開けてくることに気付いて頂きたい。

 

ライセンスで仲間を増やしたり、開放して技術改良を促進したり、社員に発明創造の場を与えて人財育成を図ったり、使い途は無限にあるのだ。

 

例えば、特許をルールブックとして使ったり、あるいは、手順書や広告塔として使ったり、時には借入金や補助金の保証書として使っても良い。規格書代わりに使うことだってできる。

 

自らがリーダとなって市場を形成し維持し続けていくための運用ツールとして使う方法や、安定収益を上げていくための収入源として使う方法等々、

 

知恵を絞れば色々な活用法が思い浮かんでくるはずだ。

 

しかも、法律という後ろ盾に守られた強固で安全なツールなのだから。

 

『独占』という言葉に固執せず、視点を変えることで、さらに面白い活用法を見つけ出せるのではないだろうか。

 

 

それでは、また。

 

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★ 編集後記

 

特許の使い方も『飴と鞭』と同じです。

今の時代は、飴として使う方が合っているように思います。

 

そう云えば、先日スーパーで飴を買おうと思ってカゴに入れた所、周りのお年寄りの方々が皆同じ飴袋をカゴに入れているのを見て元の場所に戻してしまいました。

 

家に帰ってから少し落ち込みました(失笑)。

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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