━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第80号 ━━
今年の猛暑で遂に家のエアコンがダウンしてしまいました。
そんなに酷使していなかったのですが、昨日まで順調だったのが、翌日急に動かなくなりました。
デジタル製品は、壊れる時もデジタルです。
さすがに暑さには耐えきれず、買い替えを決意したのですがどこも品切れで大変でした。
そんな中、やっと手に入ったのがダイキンのエアコン。しかし、このエアコン、びっくりするほど静かなんです。
別室に居るような不思議な感覚・・・動いているのに、まるで眠っているかのようです。
静かというだけで、室温が1~2度下がったような気がしました。
ちょっと興味を惹いたのでダイキンさんの特許を覗いてみたら、これまでに約2万件の特許が出願されており、そのうち静音、低騒音、静か、といった音に関する特許が約4千件、なんと、
実に、開発の2割を静音設計に充てていることになります。
ファンの改良は勿論のこと、中には配線の周りを遮音材で取り囲んだ特許までありました。
この驚くほどの静けさへの拘りが、「眠っているエアコン」を産み出したのかも知れません。
ダイキンと云えば、つい先日の日経電子版で『次世代冷媒の特許開放』という記事を目にしました。
詳しくは、冷媒ではなく、冷媒を用いた空調機の特許93件を無償で開放する、ということのようです。
使用する冷媒は、「HFC(ハイドロフルオロカーボン)32」別名R-32と呼ばれるもので、全世界がこれを使った空調機に置き換わると、2030年までに地球温暖化が最大24%も抑制できるとのことです。
それにしても、トヨタの燃料電池車といい、パナソニックのIoTといい、最近は、特許の無償開放がブームです。
もはや、大企業でさえ全ての技術を自社だけで賄うには限界を来しているようです。
技術開発の世界で、オープンイノベーションが浸透して来た証しとも言えるのではないでしょうか。
そこで、特許の無償開放戦略について、少し考えてみたいと思います。
この戦略は、特許の最大の武器である排他的独占権を使って市場を独り占めする、知財権の『行使戦略』ではなく、逆に仲間を集めて市場の開拓や拡大を狙う、知財の『活用戦略』の一つと言えます。
さらに、特許を開放することで技術の標準化(デファクト化)を推進して規格統一や部品の共通化を図り、消費者への利便性や市場の安全保証を導くための『パートナー戦略』とも言えます。
これは、特許を使わせないのではなく、敢えて使わせることで、仲間を増やして市場を拡げ、需要を拡大して自社の売り上げを伸ばすことを狙った作戦なのです。
ただし、この作戦で犯しやすいミスは、特許を開放すれば仲間が増えて市場が拡がるという思い込みです。
実際問題として、特許を開放しただけでは、そう簡単に仲間が増える訳でもなければ、市場が拡大する訳でもありません。
その理由は、2つあります。
一つ目は、パートナー探しや市場の開拓で大切なのは、特許ではなく、その技術自体に魅力があるかどうかという点が評価されるからです。
「特許をご自由にお使い下さい」と、いくら叫んでみた所で、技術に対する信頼性や将来性が不透明では、誰も手を挙げてはくれません。
そして、2つ目は、話題性です。メディアが飛びつくようでなければ、知名度は広がりません。
大企業の場合は、会社自体のネームバリューにマスコミが反応して話題性を呼びますが、知名度の低い会社の場合、いくら優秀な技術であっても特許を開放しますといったところで、メディアの反応は
小さいと思われます。
そこで、特許開放前の事前準備として、技術の信頼性や将来性をどうアピールするか、そして、どうやってメディアの注目を集めるか、というシナリオをしっかり作っておくことをお薦めします。
更に、特許の無償開放戦略では、開放ではなく「無償」の方にこそ意味があると考えられます。
しかし、金品を注ぎ込み苦労して手にした自分の財産をタダで他人に提供するわけですから、相当の決意と注意が必要です。
ビジネスは、ボランティアではありません。
では、どのような『決意』と『注意』が要求されるのか?
これについては、次回持説をご紹介したいと思います。
それでは、また。
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★ 編集後記
聞く所によれば、エアコンが故障した時のダイキンさんの対応は、他と比べ物にならないほど早く、的確で、実に素晴らしいそうです。
修理対応でお客様に感動を与えられる会社こそ、人財という強力な知的財産を持っている会社だと思います。