━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第82号 ━━
明けましておめでとうございます。
しばらくお休みを頂いておりましたが、企業(起業)経営の一助となることを祈願して、今年は月1~2回のペースで経験から得た教訓をお伝えして参りたいと思います。
引き続きご愛読の程、宜しくお願い申し上げます。
さて、昨年はTVドラマの視聴率が低迷する中、『下町ロケット』は久々に高視聴率を叩き出したようです。
「大企業vs.町工場」の勧善懲悪サクセスストーリーに、視聴者はスカッとしたことでしょう。
しかし、直木賞作家が作り出したフィクションの世界に現実離れの感は否めません。
実際のところ、巨額の札束をチラつかせ、悪丸出しの稚拙な戦略で町工場と戦う大企業がそうそうある訳ではありません。
むしろ出来る限り支出を減らして、社内でカバーする(大企業にも優秀な技術者は多いので)のが普通だと思います。
ドラマの中で大企業がとった戦略は、幼稚な「物略」としか言いようがありません。
昔と違って今の時代、企業戦略で重要なのは、物略(物的戦略)ではなく、知略(知的戦略)なのです。
ただ、このドラマで注目したいのは、「大企業の生産力vs.町工場の職人技(匠の技)」という構図です。
これは、言い換えれば「特許vs.ノウハウ」の構図とも云えます。
大きな設備投資が出来ない町工場が、生産力において大企業を凌駕するのは困難です。
しかし、職人さんの匠の技だけは、設備投資で手に入る代物ではありません。
佃製作所のエンジンが帝国重工のロケットに採用されたのは、特許があったからではなく、匠の技(ノウハウ)があったからだと考えるべきでしょう。
小が大を制するノウハウ、まさに恐るべし!
でも、このノウハウにも、大きな弱点があることをご存知でしょうか?
「ノウハウ」という言葉は、非常に広義な解釈がなされますが、一般には秘密にすべき技術的知識や経験を指し、社外に洩れないように厳重な管理を要するものとされており、漏洩したら取り返しがつかないと言われています。
しかし、匠の技は、長年培われた経験と研ぎ澄まされた勘によって人が体得したもので、たとえ洩れたとしても誰も真似することが出来ない技なのです。
従って、洩れたら終わり、というのが弱点ではありません。
洩れて困るものは、ノウハウと言うより営業秘密と呼んだ方が適切で、隠すよりも特許化しておく方が良いでしょう。
(ただ、特許化に際してはテクニックも必要ですが・・・)
では、洩れても困らないノウハウの弱点とは、一体何でしょうか?
それは、ノウハウが「人に依存する」ということです。
人に依存する以上、どうしても生産数量には限界があります。
従って、匠の技(ノウハウ)は、ごく限られた専用品に対しては威力があるものの、生産数量が多い汎用品には使えません。
ロケットのように一発勝負の製品には適していても、打ち上げが成功するとそれでおしまい。
どんなに素晴らしいノウハウを持っていても、市場を発展させ拡大していくことは出来ないのです。
これこそが、ノウハウの致命的な弱点だと云えます。
では、どうすればこの弱点を補えるのでしょうか?
実は、以前ある製品の開発でこんな経験をしたことがありました。
試作品は素晴らしい出来だったのが、量産品になると途端に不良が多発したのです。
原因は、使用部品にありました。
試作で使った部品とは違う部品に変更したことで、性能の低下を招いたのです。
この変更の理由こそが、ノウハウの弱点だったのです。
続きは、次号で紹介したいと思います。
それでは、また。
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★ 編集後記
今年は申年。
「申」は、十二支の9番目で、「もうす」とか「のばす」という意味があるとのこと(猿とは無関係だとか・・・)。
そこで、「申して伸ばす」・・・今年の抱負です。
因みに、言い難いことを相手に伝える秘訣は、『雑談力』だそうです。