知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

ノウハウの弱点、その克服法とは - ノウハウ + 特許 = ??? -:第84号

2016年2月15日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第84号 ━━

 

余談ながら、一子相伝の秘技として知られる日本刀の作り方は、ノウハウの固まりと言われています。

 

特に、窯の温度は、刃こぼれし難い刀作りにとって極めて重要なノウハウとのこと。

 

昔、師匠の技を盗もうとして窯の中に自分の手を入れて、窯の温度を確かめようとした弟子に対して、師匠は、その手を斬り落としたという逸話を聞いたことがあります。

 

なるほど、ノウハウとはそうやって守っていくものなのかと、当時は思っていました。

 

しかし、如何に窯の温度が大事だとはいえ、それだけで師匠と同じ刀を簡単に作れるはずがありません。

 

師匠が弟子の腕を斬り落としたのは、技を盗まれないようにするためではなく、勝手に盗もうとした行為に立腹したからだと考える方が自然だと思います。

 

ノウハウの技は、「守り」続けるものではなく、「磨き」続けるものというべきではないでしょうか。

 

だからこそ、他人はノウハウを簡単に真似することはできないのです。

 

ただ、この卓越した技は、その人に依存するため、生産力には限界が出てきます。従って、裏を返せば、大量生産で利益を上げる大企業は、できるだけノウハウを持たない方が良いということになります。

 

いつ、誰が作っても同じものが出来る。これが、大企業の強みなのです。

 

そして、それは製造機械にあります。

 

機械の性能を出来るだけノウハウに近づけること、これこそが大企業の最大の開発テーマなのです。

 

そこで、大企業と戦う中小企業の戦略として有効なのが、『ノウハウ + 特許』の融合戦略です。

 

これは、ノウハウを特許にするというものではありません。(人に依存するノウハウを特許にすることはできませんから)

 

では、ここでいう特許とは、何か!

 

それは、自分のノウハウを、もしも機械にやらせるとしたら、どんな機械が必要かという特許です。

 

ノウハウに一番近い機械が作れるのは、ノウハウを持っている人なのです。

 

そして、このノウハウに一番近い機械の特許を持っている会社は、絶対に大企業には負けません。

 

何故なら、大企業がいくら多くの特許を持っていようとも、生産量は圧倒的に大企業の方が上ですから、それだけ受けるダメージも大きいということです。

 

大企業に参入されると勝ち目がない、と思っている中小企業の皆さん、いくら優れたノウハウでも、それだけで勝つことはできません。

 

『ノウハウ+特許』の抱き合わせ作戦が有効です。

 

自分は、どんなノウハウを持っているのか、一度洗い出してみては如何でしょうか。

 

ノウハウ+特許=???  その答えは、

 

『マーケットリーダであり続けること』なのです。

 

それでは、また。

 

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★ 編集後記

 

今になって、ようやく知った事。

 

浮世絵師の東洲斎写楽の語源は「しゃらくせー」(これは知ってましたが)、葛飾北斎は「アホくさい」だそうです。

 

北斎の類い稀なる観察眼は、かの「ひまわり」を描いたゴッホにも大きな影響を与えたとか・・・

 

死ぬまで(89歳)描き続けた北斎の情熱にあやかり、明細書を書き続けられたらと願う今日この頃。

 

生涯現役・・・いい響きです。

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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