知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

あっと驚く「えっ!」特許 - 「無人車」のニュースを見て思う事 -:第85号

2016年3月9日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第85号 ━━

 

先日の日経電子版に、グーグルの「無料送迎タクシー特許」の話題が掲載されていました。

 

特許は、2年以上前の2014年1月に登録されたもので、内容はグーグルの広告を見た人を無料で店舗まで案内するというビジネスモデルに関するものです。

 

ただ、この送迎タクシーは、自動運転の無人車を想定したもので、グーグル以外にも、米Uber社のようなIT企業が相次いで無人車産業に参入しているようです。

 

日本でも、DeNAとZMPが自動運転のロボタクシーの実用化を目指して設立した合弁会社が話題を呼んでいます。

 

でも、無人車なんて作ったことがない人達が、こうも大勢自動車産業に参入して来ると、自動車メーカは一体どうなるのでしょうか。

 

これまで自動車は、「作る人 vs.乗る人」という構図で成り立っていました。

 

それが、今後は「作る人 vs.使う人」という構図に変わっていくのではないでしょうか。

 

そうなると、自動車は乗るために完成された機械ではなく、使うための一つの部品になってしまう可能性があります。

 

自動車が部品として扱われるようになると、高額車のシェアは落ち込み、低額車による価格競争の時代へと追い込まれるのは必至です。

 

まさに、日本の自動車メーカは、半導体の二の舞となり、世界に取り残されてしまう悲惨な結果になりかねません。

 

昨日まで多くの車載部品メーカの上で胡坐を掻いていた自動車会社に、部品メーカとしての舵取りができるのでしょうか・・・。

 

IT企業が無人車産業に乗り出したのは、無人車を自動車として見ているのではなく、「一つの情報」として捉えているからだと見ることが出来ます。

 

彼等にとって、自動車は「走る車」ではなく、「動く情報」なのです。

 

今の自動車メーカに、この視点がなければ、近い将来半導体と同じ憂き目を見る羽目になることが危惧されます。

 

では、どうやって打破するのか!

 

そのカギを握っているのは、自動車メーカのエンジニアではなく営業マンだと思います。

 

以前、半導体事業部で「えっ!」特許というのを出したことがあります。

 

これは、音声合成(マイクロコンピュータで人の音声を生成する技術)に関する特許です。

 

人は、考え事をしていたり、おしゃべりをしている時、不意に声をかけられると思わず「えっ!」と言ってしまうものです。

 

そこで、この「えっ!」という声を聞いたら、同じ言葉を繰り返すという特許です。

 

例えば、エレベータの自動アナウンスや、自動応答サービス等に利用することで、確実にお客様に話を伝えるための特許です。

 

これが人間なら、「何度も同じことを言わせるなよ!」となりますが、相手は機械ですので感情に走ることなく平気で同じ言葉を繰り返してくれます。

 

なかなか面白い特許だと思い、誰の発明だろうと思って見たら、それは技術者ではなく、音声合成チップの販売促進部の人でした。

 

そうなんです! この発想は、「作る」という意識から出るのではなく、「使う」という意識から生まれるものなのです。

 

どうやって無人車を作るかではなく、上手に使ってもらうにはどうすれば良いか、という意識が、「走る車」ではなく「動く情報」という発想を産み出すのだと思います。

 

世界トップレベルの技術を誇る日本の自動車メーカが、無人車でもトップを走り続けるには、まさに営業マンがそのカギを握っていると言っても過言ではないでしょう。

 

いくら優秀な無人車を作っても、その使い方を他人の特許で押えられていては、商売あがったりですから・・・。

 

それでは、また。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★ 編集後記

 

自動車業界にも新たな風が吹き始めたようです。

 

そういえば、最近の特許相談で多いのが、自動運転や無人車に関するアイデアです。

 

それも、自動車メーカではなく、異業種の方々ばかり。

 

もしかしたら、貴方にも大きなビジネスチャンスが訪れるかも・・・。

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。