━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第89号 ━━
知財セミナーにご参加頂いた数社の知財部の方からこんな話を聞きました。
「うちの知財は、会社の主流から外れている。」
「真っ先に削られるのは知財予算・・・」
「最近、技術部門との距離感を感じる。」
「頑張っても成果が見えない。」
かつて現役だった頃の自分を思い起こす内容でした。
会社内での知財部の存在感って、今も昔もそんなに変わらないようです。
でも、どうしてそのように感じるのでしょうか・・!?
それは、知財の成果目標の立て方に問題があるのかも知れません。
多くの会社では、知財の成果目標と云えば、『年間の特許出願件数』と『登録率』の2つがメインです。
確かに、この2つは、知財部にとっては重要な目標と云えます。しかし、
製造部の『生産目標』や営業部の『売上目標』等のように会社の利益に直結する目標に比べると、やはり経営層からの注目度は低いと云わざるを得ません。
経営層からの注目度が低いと言う事は、取りも直さず他部門からの注目度も同じように低いということです。
自分の経験を振り返って見ても、私が担当していた半導体事業は、当時米国企業や韓国企業との特許係争で大忙しでした。
特に、経営会議や事業戦略会議等事業部のトップが集まる会議では、必ず特許に関する議題が検討され情報共有されていました。
そのため、事業責任者から各部門長に至るまで特許に対する意識が非常に高く、各部門長が取りまとめる部門の社員もまた特許に対して高いモチベーションを持っていました。
お蔭で、技術者は知財部に協力的で、特許出願や特許調査も他人事ではなく熱心に取り組んでいました。
これに対して、然程特許に苦しめられていなかった他の事業の人達は、まるで対岸の火事の如く無関心を装っていました。
これでは、知財活動が上手く行くはずがありません。
中でもシステム設計を担当する装置事業では、特許の問題は部品の所為(せい)と決め込んで、全ての責任を部品メーカに押し付けるのが慣わしのようでした。
当然、特許の出も悪く教育にも無関心な有様。
後に、海外メーカから特許訴訟を起こされて大変な目に遭いました。
装置事業のトップが知財に目覚めたのはそれからのことでした。
経営層が知財に注目すると事業スタイルは変わります!
では、どうやって注目させるのか!
それは、知財目標の立て方がポイントなのです。
経営層が注目する会議等の場で目に留まる目標でなければなりません。
そのためには、出願件数や登録率のように知財固有の目標ではなく、もっと経営戦略や事業戦略に直結した目標にする必要があります。
たとえば、損益貢献率、売上高貢献率、品質改善寄与率、販売支援寄与率、原価低減寄与率・・・のように。
「出願件数」や「登録率」は、これらの目標を達成するためのツールだとお考えください。
如何に素晴らしいツールであっても結果を出せないようでは会社にとって何の価値もないのです。
今、知財部が危ないのは、閉じられた知財の世界の中だけで、もがいているからなのではないでしょうか。
もっと、経営や事業に及ぼす知財の真の威力をアピールしてみては如何でしょうか!
それでは、また。
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★ 編集後記
先日、TV通販のキャスターが、「この商品は『特許技術』を使って作られたものです」と言っていました。
特許技術と云ったら、『特許を取るための技術』だということが長年染み込んでいる特許屋にとっては、「そりゃ違うだろう!」と違和感を感じずにはいられませんでした・・・(笑)。
言葉の使い方って大事ですよね!
しばらくお休みしていたブログを月1のペースで再開したいと思っております。お付き合いいただけたら幸甚に存じます。
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