知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

病院で見つけた意外な関係 - 脳血栓と特許の共通性とは・・・? -:第90号

2021年12月13日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第90号 ━━

 

ブログを再開しようと思った矢先、脳間に出来た血栓のせいで脳梗塞を患ってしまい入院を余儀なくされました。

 

幸いなことに、右手足に麻痺が残りましたが、頭と口は頗る達者です。これからは、右手が使えないサウスポー・コンサルタントとして、皆様のお役に立てればと思っております。

 

利き手が右手だった私は、これまでずっと右側から見た世界に親しんで来ました。しかし、今回、左から見る世界へのシフトを強要された結果、これまで経験したことがない感覚を体験できたのも事実です。

 

例えば、スマホの文字入力で、「き」を打つ時、右手で打つと「か」の左側が「き」となりますが、左手で打とうとすると左側の「き」ではなく、どうしても右側の「け」を打ってしまうのです。スマホのキーの位置は変わらないのに、頭の中では左右逆転現象が起きてしまいます。

 

両手でスマホを操作される方にとっては、どーということはないのでしょうが、右手一本での操作に慣れた私にとっては、まさに未知との遭遇でした。

 

さて、左から見る景色については、おいおいご紹介することにして、今回は、脳血栓と特許の関係について気付いたことを認めます。

 

私の場合、気を失ってから病院へ搬送されたのではなく、正気を保った状態のまま救急車で病院へ向かいました。CT検査では異常がなく帰宅OKとの見解だったのですが、念のために受けたMRI検査で脳間に血栓が発見され即入院と相成りました。

 

ただ、冷静に考えると、三日ほど前から軽い眩暈を感じており、声枯れの症状もありました。しかし、その時は、不定愁訴か自律神経失調症ぐらいだろうと高を括っていたのです。

 

これは、ヤバイ! と感じたのは、四日目の朝でした。眩暈が酷く、真っ直ぐに立つこと出来なくなったからです。この日から入院生活が始まりました。

 

入院してから二日間は特に体の痺れもなく脳の回復に専念出来ました。右半身の動きが鈍くなったのは入院後三日目からでした。そして、四日目には、右手と右足が全く動かなくなりました。

 

脳梗塞による麻痺症状は、時間差で出てくるとのことでした。

だから、一日でも早く入院していたなら、麻痺が起きる前にリハビリを始めることができたであろうと悔やまれてなりませんでした。動く部位のリハビリと動かない部位のリハビリでは、回復に雲泥の差がでるようです。

 

「一日でも早く・・・」そう思った時、また、あの悔やみきれない事件が頭の中を過ぎりました。

 

以前、このブログでも触れたことがあったかと記憶していますが、忘れもしない競合F社に出し抜かれた事件です。

 

それは、半導体で使われる保護膜の製造技術でした。当時の半導体は、高集積化の時代で、そのカギを握ると言われていたのが保護膜の製造装置(CVD)で、各社とも多額の設備投資を行っていました。

 

そんな中、我々の技術者が、既存のCVD装置の電圧制御をパルス駆動にすることで膜質が著しく改善されることを見出し、最善と思われるパルスの駆動条件を実験で確認して特許出願しました。

 

ところが、我々と同じ特許をF社が一日早く出願していたのです。

しかも、F社はパルスの駆動条件に関する詳細には触れることなく、CVD装置にパルス電圧を与えて保護膜を形成するという上位概念(技術思想)の内容で出願していたのです。

 

結局、F社に基本特許を押さえられ、我々は実用化特許に甘んじることになってしまいました。アイデアの発想と発明の完成は、絶対我々の方が先だったと今でも信じております(苦笑)。

 

実は、このような失敗は、これ1件ではなく、かなりの数、同様の苦汁を飲まされました。特許の場合、敵がいつ出願したかは、公開されて初めて知ることが出来るのですから。

 

ただ、不思議なことに、同じアイデアは同じ時期に公表される確率が高いようです。昔から「必要は発明の母」と云われとぃるように、皆、同じ頃、同じような必要性に気付き、同じような解決策を思いつくのでしょうね。

 

だからこそ、「あと一日」で悔やむより、「あと一日」早く行動に移しなさい!

これが、正解のようです。

 

一か月かけて100点を取るより、10日で80点の方が役に立つ場合もあるということをお忘れなく。

 

内容とスピード、どちらを取るかと言われたら、私は迷わずスピードを選びます。内容は、国内優先や継続出願で補強することが出来ても、スピードだけは一発勝負、挽回策はありませんから。

 

 

それでは、また。

 

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★ 編集後記

 

久しぶりのブログが、まさかの脳梗塞から始まるとは、全く予想もしませんでした。しかし、現実を受け入れることで、新たな自分を発見することができたのも事実です。

 

惨めったらしく過去を振り返るより、未来を見つめて夢を追いかけたいと思っています。

 

ところで、本ブログのタイトルに書いた「脳血栓と特許の共通性とは・・・」

何だか、お分かりになりましたか?

 

答えは、「どちらも時間を止められない」です。

 

早めの行動が、得を呼び込みますよ!

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知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。