知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

スタートアップ企業を守る屈強な砦 - Googleに負けるな! -:第92号

2022年1月13日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第92号 ━━

 

Google、Twitter、Facebook、Uberは、共にスタートアップ企業の代表と言われています。これらの企業は、いずれもITを主軸としたビジネスを展開しているので、スタートアップ企業といえばIT系の企業と思われがちですが、実はそうではありません。

 

スタートアップ企業の共通点は、

 

1.これまでに無い全く新しいビジネスモデルを創造したこと(新規性)

2.そのビジネスモデルが市場と顧客に受け入れられたこと(受容性)

 

の2点です。従って、IT系でなくとも、どの業種であれ、社会にイノベーションを巻き起こすチャンスは一様に与えられているのです。

 

しかし、新しいビジネスモデルには、弱点もあります。それは、そのモデルがどんなに優秀でも、新しいが故に認知度が低いということです。

 

GoogleやFacebookも、ビジネスを立ち上げた当初は、自分達のビジネスをどうやって世間に知らしめるかが、最大の課題だったはずです。

 

この課題を克服するため、彼らは自分達のビジネスモデルを世間に広くアピールする手段として、ネットワークをフル活用した広報プロモーションに全集中したことは想像に難くありません。

 

ご存じの通り、Googleのビジネスモデルの収入源は、広告収入です。そのため、自分達の知名度を上げなければ、広告収入の増加は期待できません。

 

そこで、Googleは、自分達の武器である販促ツール用の検索エンジンを無償で提供するというビジネス戦略で市場に攻勢をかけました。

 

この戦略が功を奏して、利用者が急増し、スタートアップ企業のGoogleは瞬く間に頂上へと駆け上って行ったのです。

 

しかし、自分達の武器である検索エンジンが如何に魅力的であるかを顧客(利用者)に訴求するためには、そのエンジンで何が出来るのかを分かり易く公表する必要があります。これは、すなわち、エンジンの機能や性能、操作性といった技術的に核となる部分を包み隠さず全て公開することに等しいのです。

 

しかも、公表ツールが公衆ネットワークですから、当然のことながら競合他社や新たなビジネスを模索中の人の目に容易に触れてしまい、敵に塩を送る行為になってしまうのです。

 

Googleビジネスモデルの生命線とも云える検索エンジンと同類のエンジンが、他からも市場に出回ると忽ち競争力を失ってしまうのは目に見えています。

 

そこで、Googleが採った次なる戦略が、特許で参入防止の城壁を築くことでした。

 

Googleは、日本市場への参入も意識して、設立当初の1999年や2000年は僅か1件だった日本への出願を、2003年には12件、それ以降は40件、50件、60件と件数を伸ばし、さらに、2011年からは出願件数を三桁に増やすという猛烈な勢いで特許による城壁を築いています。

 

しかも、注目すべきは、これらの特許出願が、Google検索エンジンに関する技術をネットワークで公表する前に行われていることです。

 

そして、この前倒し出願作戦は、ネットワーク公表だけでなく、学会発表や販促パンフレットの配布等においても必ず厳守されているのです。

 

この作戦は、自分達の技術を世間に公表する代償として他社に真似されることを防止するためにGoogleが採用した最善の策と云えるでしょう。

 

Googleの検索エンジンを真似ようとした相手は、公表後に次から次へと公開されるGoogle特許を見て、もはや為す術なしと市場参入を断念せざるを得なかったことでしょう。

 

Googleは、最大の武器である検索エンジンの機能を充実させるために魅力的な機能をM&Aで補強しつつ、特許でガードするという戦術で、強敵であったヤフーを検索ビジネスから撤退させるという離れ業をやってのけたのです。

 

スタートアップ企業を守る屈強な砦とは、まさに『特許出願による参入防御壁』を構築することなのです。

 

かく言う私も、AI企業の特許出願をお手伝いする際、皆で考え出した検索技術のアイデアが、ことごとくGoogle特許で押さえられており閉口した経験の持ち主なのです。それほど、Googleの特許の壁は、高くて、厚く、そして、硬い壁でした。

 

Google特許の壁が、どうしてそんなに強固でかつ堅牢かと言うと、それは、日々の修復作業にあります。

 

どんなに強い壁でも、特許の壁は長続きしません。何故なら、出願した特許は、1年半後に公開されるからです。特許は、一旦公開されてしまえば、それを凌駕しようとする敵の標的にされてしまいます。

 

しかし、特許発明の公開は、特許制度の本来のあるべき姿で、自分の発明を公開することで他の発明を奨励し、産業の発展に寄与させるためだからです。特許法は、その公開の対価として、発明者に一定期間の独占権を与えているのです。

 

従って、Googleは、絶えず先を読み、利用者から新たなニーズを吸い上げては、その解決法を真っ先に特許出願するという仕組みを作り、着実にそれを実行しているのです。

 

自分の技術を公表する前に必ず特許を出願して参入禁止の砦を築き、そして、その砦が古くならないように常にリニューアルの補修工事を怠らない、日々のそうした努力こそが、スタートアップの新進企業を短期間で巨大企業へと育て上げたGoogleの凄さと言えるでしょう。

 

しかし、忘れないで頂きたい。特許を使った屈強な砦は、何もGoogleだけにしかできない芸当ではないということを。

 

スタートアップを目指す企業であれば、日々の努力さえ怠らなければ、誰にでも出来ることなのです。

 

大切なのは、忙しさを理由に特許出願の仕組み作りを後回しにしないことです。

 

仕組みさえ出来れば、後はそれを忠実に実行する担当者に権限を与えて業務のルーティンに組み入れればよいのです。

 

もしも、そのような担当者を持てない場合は、特許事務所にアウトソーシングすることをお薦めします。

 

Googleに臆することなく、屈強な砦を築いてスタートアップを成功へと導いていきましょう!!

 

 

それでは、また。

 

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★ 編集後記

 

スタートアップ企業とベンチャー企業の違いは、狙う市場だと言われています。

 

前者のターゲット市場は、今までにない新規な市場で、後者は既存市場のニッチな領域のようです。

 

しかし、言葉での定義は違っても、やるべき事は、どちらも同じ「強い砦」を築いて外敵から身を守ることなのです。

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知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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