知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

IPガバナンス(前号の続き) - 「知財の見える化」とは! -:第95号

2022年2月14日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第95号 ━━

 

内閣府の報告によれば、リーマンショック後の企業の研究開発投資は、諸外国では短期間のうちに回復を見せたが、日本は回復までに5~6年を要し、未だに低迷を続けているとのことです。

 

その原因は、知財や無形資産の活用に差があるからだと分析しています。

 

確かに、「モノづくり」という言葉に代表されるように、日本の企業は研究・開発より製造・生産を重視し、設備投資に大金をはたいて来ました。

 

日本人は、「目に見えない物」より「目に見える物」を重宝する傾向にあるようです。故に、企業経営においても、知財のように目に見えない資産を後回しにする傾向が強かったようです。

 

これは、製造メーカだけでなく、金融機関や投資家にも言えることです。

 

従って、日本企業が研究開発投資に積極的になるには、知財や無形資産のように目に見えない物を如何に上手に活用するかが重要なカギだと、先の内閣府は報告書で結論付けています。

 

まさに、IPガバナンスの重要性を示す説得力のある報告だと思います。

 

しかしながら、「目に見える物」にしか関心のない人達に、どうやって知財の価値を判らせるのかが問題です。

 

そこで、今回は、目に見えない知財を、どうしたら「見える化」出来るかについて考えてみたいと思います。

 

『事業は、数字で動かすものだ。』・・・私が、先輩から教えられたことです。

 

知財を見える化(可視化)するには、その価値を分かり易い指標で数値化するのが近道です。なお、数値化に際しては、知財を事業に関連付けて数値化することで経営層や社員の理解を得やすくなります。

 

さらに、知財の価値を次に示す3つの視点から数値化することで、自社の知財の強みと弱みを把握することが出来ます。

 

第一の視点は、「知財」そのものの数値化です。

 

第二の視点は、「知財戦略」の数値化です。

 

そして、第三の視点は、「知財活動」の数値化です。

 

以下に、これら3つの数値化の方法について、解説してまいります。

 

第一の知財そのものの数値化とは、例えば、特許を1件づつ個々に評価していくもので、各特許の強さと実施状況に基づいて、その特許の事業貢献度を金銭的価値として算定するものです。

 

これにより、自社が保有する特許がどの程度事業に貢献しているのかを金銭感覚で認識することが出来ます。

 

第二の知財戦略の数値化とは、例えば、特許網のように、ある特定の技術テーマに対して必要と思われる複数の特許をまとめて出願する場合に、その特許網の完成度をパーセントで評価するものです。

 

算出された数値を見て、必要十分な特許が過不足なく出願されているかどうかを判断し、次に打つべき手をタイムリーに決定することが出来ます。

 

最後の知財活動の数値化とは、換言すれば、知財部の評価とも言えます。知財部の活動が、社内でどう評価されているのか、事業にどのように貢献しているのかが数字で示されるので、経営層への理解も得易くなり、知財部のアピールやプレゼンスの向上に役立ちます。

 

以上のように、知財を事業に直結した形で数値化することで、知財に対する理解も深まり、これまで以上に社内の協力も得られ易くなります。

 

さらに、このように、知財を事業と関連付けて可視化することで、特許の出願件数や登録件数と言った知財特有の数字だけが一人歩きするのではなく、知財が事業に及ぼす影響度を分かり易く伝達することが出来ます。

 

従って、比較的知財に馴染みのない金融機関や投資家の皆さんにも興味を持たせることが出来るようになります。

 

自分たちが、どんな知財を何件持っているかを如何に声高に叫んでみても、非メーカの人には全く響きません。

 

重要なのは、持っている知財をどうやって事業に活かし、それでどの位の利益を産み出せるのかを、分かり易く伝えることなのです。

 

ある建設会社が、工場建設の資金を工面するために、金融機関に相談した所、けんもほろろに断られたそうです。

 

そこで、自分たちが持っている特許を多くの工務店にライセンスして、技術の優秀さをアピールするための実績作りをしました。

 

その数字を持って、政策投資銀行に掛け合った所、一発で融資が得られたとのことです。

 

どんなに美辞麗句を並べた説明文よりも、たった一つの数字の方が人の心を打つ場合があります。

 

IPガバナンスは、まさに、見えない宝物を実像化して、大切な経営資源として活用するための仕組み作りとも言えます。

 

コーポレートガバナンスコードで知財情報の開示が義務化されたのは、経営者が自ら知財を経営の柱として捉え、その仕組みと運用状況を絶えず把握して、金融機関や投資家に対して知財の戦略と活用に関する説明責任を持たせるためでもあります。

 

従って、各企業は、今まで以上に知財の重要性を意識して、その情報開示が求められることになるでしょう。

 

その際、本稿で述べた「知財の可視化」が少しでもお役に立てれば幸いです。

 

 

それでは、また。

 

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★ 編集後記

 

コロナの影響で、通販を利用する機会が増えました。

 

先日も、気持ち良さそうなリクライニング座椅子を見つけ、ポチッた所、届いたのが大きなタライでした。

 

何をどうポチ間違ったのか、必死に再現しようと試みましたが、全くわかりません。

 

お酒を飲みながらのポチは禁物です。皆さん、注意しましょう!

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知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。