━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第96号 ━━
「ネタバレ」とは、ドラマや漫画の原作を見た人が、そのストーリーの重要な(気になる)部分をネット上に公開した情報です。
当然のことながら、原作は、このネタバレよりも前に公表されているので、内容の先取り開示にはなりません。
ネタバレには、2つのタイプがあります。
1つは、原作を見た人が、その時の感情や感想を書き綴った、謂わば、読書感想文のようなネタバレです。
もう1つは、印象的なセリフや画像のコマをそのまま使って投稿するネタバレです。
実は、後者のネタバレに対して、東京地裁から最近興味深い判決が出されました。
この事件は、連載中の漫画のセリフを、そのままネット上に投稿したネタバレを一般公開したネタバレサイトのサーバ管理者に、投稿者の情報を開示するように求めた裁判です。
裁判所は、投稿者の行為が、漫画の著作者に断りもなく複製した「複製権の侵害」と、無断で一般公衆に向けて送信した「公衆送信権の侵害」に当たると判断して、投稿者の開示を命じました。
確かに、漫画を読んだ時の気持ちを自分の言葉で表現する感想文と違って、漫画のセリフをそのまま使うのは問題かも知れません。それも、重要なセリフの殆どを丸写ししたとなると著作権侵害に問われても致し方ないと思います。
ただ、この判決を見て思ったことは、原作のセリフを何%丸写しした場合に著作権侵害と認められるのか、その境界(ボーダーライン)は何処にあるのかという点です。
例えば、悲しい場面で主人公が「悲しい」と呟いたシーンを見た読者が、そのシーンを「悲しい」という言葉で表現して投稿した場合でも著作権侵害に当たるのでしょうか?
確かにセリフ自体は丸写しです。でも、悲しい場面を悲しいと素直に表現した行為が著作権違反に問われるならば、一体どのように表現すれば良いのでしょうか?
「悲しい」を、「哀しい」と違う単語を使えばいいのでしょうか? それとも、「切ない」や「辛い」といった同意語で表現すればセーフなのでしょうか?
著作権侵害を考える場合、小説のような長い文章の丸写しではなく、漫画のコマのように短いセリフの場合、どのように対処すれば良いのでしょうか。
著作権訴訟において、全体の何%以上が同じだと侵害になるという数字的な明確な決まりは恐らく何も無いものと思われます。
私は、以前、インクジェットプリンタの販促用カタログで嫌な思い出があります。
このカタログには、プリンタで印字する極細な文字もはっきり、くっきり印刷が出来ることを訴求するために、血圧計の測定値を非常に細かな数字で印字した例を載せました。そして、その横に血圧計が巻き付けられた人の腕の写真を丸枠の中に小さく掲載しました。
すると、ある会社(確か、競合会社だったと記憶しています)からクレームが来ました。
それは、血圧を測定している人の腕の写真が、その会社の著作権を侵害しているから、「カタログを全て回収して謝罪しろ」というものでした。
この話は、以前にも紹介しましたが、あまりに印象的な出来事だったので著作権の話をすると必ず思い出してしまうのです。
飽く迄も脇役のはずのほんの小さな腕の写真が著作権を侵害したという理由で、全回収に謝罪という最悪の事態に見舞われたのですから、、、、(苦笑)。
しかし、紙面の1/50にも満たないあんなに小さな脇役の写真を、よくもまあ見つけ出すものだと感心します。
カタログの全回収には多額の費用を費やしましたし、回収先への事情説明やクレーム会社への謝罪も大変なものでした。
最近では、著作権違反を見つけ出すコピペチェックツールもあるので、違反しそうな箇所を見つけることは、比較的容易なようです。
しかし、問題は、違反個所を見つけることではなく、見つかった際の対処の仕方なのです。
コピペチェックツールで他人の創作物と同じ個所が見つかったからと言って、全てをリセットして一からやり直すのでは時間がかかってしまい、ややもすれば商機を失いかねません。
かと言って、この程度なら目立たないだろうとか、これはメインじゃないから、という理由で無視する訳にも参りません。
では、どのように対処すべきなのでしょうか。
著作権は、相対的独占権ですから、見ないで同じ物を創作しても罪にはなりません。
従って、原作と同じ個所が見つかったら、まず、見て書いたのか、それとも、見ないで書いたのかを確かめることが先決です。
その上で、見て書いたのであれば、原作のコピペではなく、自作の文言での表現に変えるべきです。
しかし、一度原作を見ているので、その世界から抜け出して真っ新な状態に戻すのは、簡単そうでいてとても大変な作業なのです。
そこで、私は、著作権侵害から抜け出す方法として、自分で考えるのではなく、他人にヒントを貰うことをお勧めしています。
他人から貰ったヒントを元に、それを自分でアレンジして意に沿った内容に修正するのが早道なのです。
「急がば回れ」の例え通りです。
著作権侵害をチェックする機能を有する弁理士事務所で、侵害の事実だけを伝えるのではなく、その対処法のヒントになるような回答を与えてくれる事務所がよろしいかと思います。
それでは、また。
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★ 編集後記
手塚治虫先生の代表作の一つ「鉄腕アトム」の偽物が中国で出回った時、偽物を見た手塚先生は、その出来栄えのあまりの酷さに驚かれたそうです。
先生は、これじゃ読者が気の毒だと言って、自ら修正したアトムを中国に送られた、という逸話を聞いたことがあります。
作品よりも読者を大切にされる手塚先生の偉大さに感服の至りです。
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