━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第99号 ━━
ソニーとは、私がNEC入社以来、リタイアするまで、良きライバルであり、そして良きパートナーでもありました。
中でも、パソコン事業を担当していた頃は、LAVIEとVAIOで熾烈なシェア争いをする一方で、著作権保護のためのウォーターマーク(電子透かし)技術の世界標準化ではパートナーとして欧州勢と戦いました。
そんなソニーのVAIO開発の裏話を先日TVで耳にしました。
VAIOと言えば、スタイリッシュなデザインです!
パソコンのデザイン性においては、ずっとソニーに勝てなかったというのが個人的感想です。
その理由を自分なりに分析すると、両社のビジネス戦略の違いが挙げられます。
NECは、一貫してコマーシャル(企業向け)市場とコンシューマ(家庭向け)市場の両方でシェアNo.1を取るための戦略でした。
これに対して、ソニーはコンシューマ(家庭向け)市場重視の戦略で、特に、個人消費者をターゲットにした販促に注力していました。
故に、ソニーの方がNECよりもデザインの融通性が高かったのは事実です。
しかし、それよりももっと大きな組織上の違いがあったのです。
パソコンの設計は、機能設計と構造設計に分けて行います。機能設計は、パソコンの機能/性能、操作性を中心に設計するもので、構造設計は、主にデザインや重量を中心に設計します。
NECは、機能設計部隊と構造設計部隊が同じパソコン開発部に属していました。
そのため、どうしても機能設計の方が構造設計よりも重視され、機能に合わせるようにデザインを変更する傾向が強かったのです。
しかも、コマーシャルとコンシューマの両方でコスト対策も行なわなければならないため、設計の共通化が互いの個性を消去する結果になりかねません。
ところが、ソニーでは、機能設計と構造設計は、夫々別の部署に分かれており、特に、構造設計(デザイン)は社長直轄の組織に編成されていたのです。
従って、NECとは逆に、デザインに機能を合わせるような体制になっていたようです。
「機能重視のNEC」対「デザイン重視のソニー」、ここに戦略上の明暗がはっきりと分かれていたのです。
さすがは、ソニー、人と同じモノは作らない、誰も作っていないモノを作る、という創業者・井深大氏の思想が脈々と受け継がれているのです。
ソニーが怪物たる所以は、ここにあったのかも知れません。
そんなソニーですが、最近話題になっているのが、次世代電気自動車(EV)の開発で、ホンダとタッグを組んだというニュースです。
ホンダの創業者・本田宗一郎氏も「人の真似はしない主義」の思想の持ち主です。
「人と同じものは作らないソニー」と「人の真似はしない本田」がタッグを組んだとなれば、一体どの様な電気自動車が誕生するのでしょうか。
実に、興味深い話です。
コロナの影響で様変わりしたものの、世の中は、モバイル(静)からモビリティ(動)にシフトしようとしています。
電気自動車で有名な米国のテスラ社は、無人運転の先駆者で、自動車を「動く車」ではなく「動く情報」と捉え、各種センサー情報をネットワークで繋ぎ、コンピュータで管理するという斬新な思想の下で次々と新車を世に送り出しています。
謂わば、人力車を自動車に変えた如く、モビリティを機械設計から電気設計に変えてしまいました。
これに対して、ソニーとホンダの今回の提携は、移動とエンターテインメント
を組み合わせる「次世代夢の自動車」とでも言うべき革新性を秘めていると言っても過言ではないでしょう。
どの自動車メーカも新たなEV車を模索しているようですが、もはや従来の自動車の知識だけでは限界があるようで、ソニーのような新しい異業種のパートナーが必要なのかも知れません。
ただし、注意すべきは、「新」が付くと必ず浮上するのが特許問題です。
特に、電気と機械の組み合わせで製造されるEV車は、従来の自動車特許でもIotやAIのような電気・情報特許でも叩ける格好の的になります。
しかしながら、ソニーとホンダのように異業種同士の提携は、自動車特許で攻められた時はホンダの特許で対抗し、電気や情報特許で攻められた時はソニーの特許で応酬するといった戦い方が出来ます。
一方だけでは力が半減する特許も、相互補完によりその威力を倍増させることが出来るのです。
これを見ても、ソニーとホンダの提携は、他の自動車メーカのお手本になるのではないでしょうか。
それでは、また。
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★ 編集後記
旧知の仲だったソニーの創業者・井深大氏とホンダの創業者・本田宗一郎氏も、これから始まるEV新世代に思いを馳せながら天国で酒を酌み交わしていることでしょう。
傍観者ながら共に幸あれと祈る次第です。
パソコンでもこんな提携が出来ると良いのに・・・・(笑)。
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