知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

「知られざる特許の力」・・・とは? - 資金調達にお困りの方へ -:第101号

2022年6月16日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第101号 ━━

 

ご存じですか?  特許には3つの力があります。

 

イ)社内活性化力・・特許は人を育て、会社の総合力を高めます。

ロ)顧客獲得力・・・特許は信頼を育み、顧客との絆を築きます。

ハ)資金調達力・・・特許は技術力を評価されて、投資家の注目を集めます。

 

しかしながら、これらの力は、ただ特許を出しただけで発揮出来るものではありません。

 

出した特許を周りの人に評価してもらうことが大事なのです。

 

出願した特許は公開されるのだから、どんな特許なのかは誰でも知ることができるはず・・・・、そんな考えでは、決して周りに分かってはもらえません。

 

何故なら、公開された特許に注目しているのは、競合企業やパテントトロールのような敵ばかりなのですから。

 

また、日本では、海外に比べてベンチャー企業やスタートアップ企業が育ち難いと言われています。

 

思うに、そこには、大きく2つの理由が考えられます。

 

1つ目は、特許が事業戦略上の重要な位置を占めていないということ。即ち、特許に対する周りの認識が、海外よりも数段低いということです。

 

2つ目は、ベンチャー企業やスタートアップ企業自身が、特許を経営の武器にする方法を知らないということ。特許の使い途を理解しないまま起業しようとしていることです。海外の投資家は、起業家がどんな武器を持っているのかを誰よりも注視しています。

 

冒頭に記載した(イ)社内活性化力と(ロ)顧客獲得力は、上記1つ目の理由に因るところが大です。一方、(ハ)の資金調達力は、まさに2つ目の理由が課題なのです。

 

さらに、上記2つの理由に共通して言えることは、自分の特許のアピール不足が挙げられます。

 

スタートアップ企業やベンチャー企業の多くは、特許を取ることに専念するあまり、出願して登録されると、それで終わりと思っている節があります。

 

私は、これまでも折に触れ「特許は出すものではなく、使うものだ!」と伝えてきました。

 

テレビCMや通販サイトで良く耳にするのが、「この商品は当社独自の特許技術で作られたもので誰も真似することは出来ません」というセリフです。

 

これは、BtoCビジネスで一般消費者(エンドユーザ)の購買意欲を煽るには有効かも知れませんが、上述した特許の力を発揮させることは出来ません。

 

特許技術で商品を作るのは当たり前のことで、BtoBビジネスには然程有効とは言えません。ましてや、投資家の心を掴むことは到底出来ないでしょう。

 

私が言う「特許を使う」とは、特許で物を作ることではなく、特許という武器を使って自社の強さや将来性/成長性、あるいは、信頼性や期待感を持たせるようなアピールを行うということなのです。

 

ただし、アピールと言っても、特許の内容や技術の素晴らしさを声高に叫ぶことではありません。

 

大切なのは、『その特許が持つ魅力』を如何に上手に伝えるか!・・・なのです。

 

特許が持つ魅力とは、どんな特許なのかではなく、その特許で何が出来るのか、どんな新たなビジネスを創造出来るのか、それでどの位利益が上がるのか、といった顧客や投資家の興味をそそるような魅力のことです。

 

そのような魅力は、単に出願した特許や登録になった特許だけを見て分かるものではなく、その特許の事業的価値や、企業の特許戦略、社内の特許活動の有様を多角的に分析して客観的に評価する必要があります。

 

さらに、これら3つの評価をスコアリングして、社外の顧客や投資家に数値化して示すことが出来ればアピール効果は上々と言えるでしょう。

 

かつて、私は先輩から「特許は伝家の宝刀だ。いざという時に抜いて使ってこそ効き目があるものだ。」と教えられましたが、そのいざという時が来て抜いてみたら錆びていたという辛い思い出があります。

 

特許は決して伝家の宝刀ではありません。店先の砂利石と言ったほうがいいでしょう。

 

しかし、その砂利石も使い方次第で、店を守る強固な壁になったり、敵への投石になったり、顧客を感動させる庭の置き石になったりするのです。

 

そのような使い方を企業のTPOに合わせてアピールすることで、顧客や投資家の心を上手に掴み取ることが出来るのです。

 

しかし、残念なことに、わが国には、こうした特許のアピールをしてくれる政府機関も特許事務所もまだ無いようです。

 

先に述べた3つのスコアリング評価を社内向けにアピールすることで、知財活動の見直し・改善だけでなく、それまで特許に馴染みが薄かった他部門の人々が特許に興味を示し色々な協力が得易くなり、風通しの良い知財環境のもと、企画・技術・営業・スタフが一丸となって社内の活性化が可能になります。

 

また、スコアリング評価によって明らかになった自社の強みを顧客にアピールすることで、確かな技術に対する信頼だけでなく、自分たちを守ってくれる屈強な特許網の存在で顧客に安心と信用を与えることが出来ます。

 

さらに、スコアリング評価で見えて来た事業戦略や成長戦略を投資家に積極的に提示することで、資金調達が得易くなります。特に、海外の投資家は、日本の起業家に興味はあるものの、その実力と将来性を見極める術がありません。従って、特許の魅力を投資家目線でアピールすることで、彼らに興味を持ってもらい、投資の動機付けとして特許を活用することが出来ます。

 

ただし、忘れないで下さい!

 

特許を権利的側面(登録の可能性は何%か、とか、権利範囲が狭いか広いか、とか、異議申立が来たかどうか、等といった特許の専門的見地)から分析するだけでは、特許の真の力を発揮させることは出来ません。

 

大事なのは、特許を事業的側面から捉えて色んな角度から多角的に評価すること、そして、その結果を相手を見て上手にアピールすることです。

 

これを機に、今持っている特許が、その力を十分に発揮出来ているかどうかを

再認識して頂ければと、心より願う次第です。

 

 

それでは、また。

 

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★ 編集後記

 

今回は、ちょこっと宣伝をさせていただきます。

 

アクシスは、この度、特許の魅力をアピールする新サービスを開始しました。

 

アクシス独自のスコアリング方式で特許の事業的価値を評価して可視化するIPガバナンス支援サービス(アクシスHPトップメニューから閲覧可)と共に、特許の魅力を事業戦略に即してお伝えする、国内でも類を見ないサービスです。

 

社内へのアピール、顧客へのアピール、そして、投資家へのアピールをお客様のご要望に応じて支援させて頂きます。

 

スタートアップ企業やベンチャー企業と投資家との橋渡しが出来れば光栄です。

 

アクシスHPの『ご依頼・ご相談』コーナーからお気軽にご利用下さい。

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知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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