知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

『ルビーロマン』よ、 ・・・お前もか!! - じゃじゃ漏れの国、日本 -:第106号

2022年10月3日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第106号 ━━

 

又しても、悲報です。

 

石川県が誇る高級葡萄「ルビーロマン」が、今、韓国で流通している模様です。

 

この葡萄は、同県が14年掛けて開発した大粒の葡萄で、一房150万円もの値が付く超高級品で、1粒が20グラム以上、糖度が18度以上、さらに、色づきの均一性といった大変厳しい評価基準をクリアしたとんでもない品質の葡萄です。

 

ところが、韓国で流通している類似のブドウをDNA鑑定した所、遺伝子が一致したとのこと。これは、紛れもなく流出品と言えそうです。

 

何故、このような事が起きてしまったのか・・・?

 

疑うまでもなく、日本のルビーロマンの苗木が、何等かの理由で海外に流出したことに間違いはありません。

 

報道によれば、中国経由で韓国に流出したとする情報が有力なようです。

 

しかし、こんなに大事件なのに、何故、開発者の石川県は何もしないで傍観しているだけなのでしょうか?

 

種苗法や商標法など、知的財産権侵害で、韓国での生産・販売の禁止を求める法的措置を取ればいいものを・・・・。

 

ところが、幾つかの報道を読み進める中で、そんな私の心配が、全くの徒労であることに気付かされました。

 

なんと、当の石川県は、知的財産権の取得手続きを何一つ取っていなかったようです。

 

これでは、誰に何をされても、指を咥えてじっと耐えるしかありません。

 

一方、違法な手段でルビーロマンを手に入れた韓国では、石川県が権利保護の申請をしていないのをいいことに、25もの農業法人が韓国内での生産・販売の申請を済ませ、大手を振って販売合戦を繰り広げているとのこと。

 

「出願しなければ、権利は主張できない。韓国で、ルビーロマンの品種に関する権利を持っている人は誰もいない。(韓国の国立種子院関係者談)」

 

しかも、韓国では、『ルビーロマン』という商標が複数出願されており、誰が先に出したかが争われているみたいです。

 

何と言うお粗末な話でしょうか!

 

不正に入手したブドウで堂々と商売をしている韓国よりも、それを防ぐことすら出来ない日本の開発者に苛立ちを覚えてなりません。

 

「ルビーロマン」だけではありません。過去には、「シャインマスカット」も中国に流出して大損害を被っています。

 

さらに、同様の損害は、ブドウに限ったことではありません。イチゴやサクランボ、ミカン、リンゴ、モモ、はたまた、花や米までもが、同じ憂き目を経験しているのです。

 

こうした問題が起きる度に、政府は新しく開発した品種の登録を絶えず呼びかけています。・・・にも関わらず、流出事件は後を絶ちません。

 

それどころか、農水省が2021年3月に公表した「新品種登録制度をめぐる情勢」によれば、新品種登録の年間出願件数は、2007年の1533件をピークに右肩下がりに歯止めが効かず、2020年には784件と半減しているとのこと。

 

何と言うことでしょうか!

 

作ってお終い。売ってお終い。・・・これが、日本人のモノ作りの現実です。

 

「詰めの甘さ」を痛感せずにはいられません。

 

生産者の責任は、製造と販売だけではありません!!

 

お客を守る。市場を守る。・・・ここまでが、欠くことのできない重要な責任なのです。

 

現に、韓国で生産されているルビーロマンは、粒は不揃い、色づきもバラバラ、

粒と粒の間は隙間だらけで三流以下の出来栄えのようです。

 

本物のルビーロマンを知らない人達は、そんな粗悪なブドウをルビーロマンだと信じてお金を払っているのです。

 

いくらDNAが同じ苗木だからといって、開発者の苦労を知らずに育てても、結果は言うまでもありません。

 

日射加減や水加減など、本物のルビーロマンには育て方のノウハウが沢山詰まっているのです。

 

そんな熱い想いで育成したルビーロマンの市場を、第三者の手で汚されるのだけは避けなければなりません。

 

そこに、作って、売るだけでは済まされない開発者の第三の責務があるのです。

 

市場を守る! 消費者を守る! ・・・それが出来るのは、真の開発者のみが持てる知的財産という権利だけなのです。

 

海外への不当持ち出しを完全には止められないとしても、流出後の法的措置を確保しておくことは出来るはずです。

 

健全な市場の中で消費者に本物を提供し続けていくためにも、開発者は市場を守るという『最後の詰め』を忘れずに、知的財産権の網を掛けておいてもらいたいと切望する次第です。

 

一方、国に対しての要望もあります。

 

確かに、今回のような流出事件が起きる度に、国は知的財産権の必要性を訴えて来ました。

 

しかし、それでも不本意な流出が後を絶たないのは、訴えるだけでは効き目がないということではないでしょうか。

 

いい加減目を覚まして、何か別の手を打つ必要があると思いませんか?

 

前述の農水省の報告によれば、新品種の開発を3分類に分け、国が開発主体のケース、都道府県が開発主体のケース、そして、その他(個人や企業)のケースで統計が出されています。

 

特出すべきは、国が開発主体の場合は、約8割が品種登録を済ませ、その他が開発主体の場合は、約6割が品種登録をしています。

 

しかしながら、都道府県が開発主体のケースでは、登録率が4割にも満たない状況です。

 

数が多い個人や企業にまでは細かく目が届かないとしても、せめて都道府県くらいはしっかり統制してもらいたいものです。

 

国民の理解を得られないことに多くの税金を使わずに、せめて、新品種の登録を忘れなかった生産者には助成金を出すとか、品種登録を前提に開発費を負担するとか、登録に関連付けた具体的政策に期待したいと思います。

 

 

それでは、また。

 

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★ 編集後記

 

このブログを書いていたら、なんと、山口県がユリやリンドウなどの県が開発したオリジナル農産物の知的財産の保護を目指す新たな条例を検討しているとのニュースが報道されました(びっくり)。

 

先陣を切って是非とも実効性のある素晴らしい条例を作って頂きたいものです。

 

あまり時間をかけずに・・・。

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知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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