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[AXIS news / 号外] 欧州単一特許(UP:Unitary Patent)制度

欧州単一特許(UP:Unitary Patent)制度

◇欧州単一特許制度の概要
◇現行の制度
◇欧州単一特許制度の詳細
◇(重要)登録済み及び移行期間中に登録された欧州特許の取り扱い
◇最後に

 

■ 欧州単一特許(UP)制度の解説 ■

1.欧州単一特許制度の概要

用語の定義:

  • EU(European Union):欧州連合
  • EPC(European Patent Convention):欧州特許条約
  • EPO(European Patent Office): 欧州特許庁
  • PCT(Patent Cooperation Treaty):特許協力条約
  • UP( Unitary Patent):単一特許
  • UPC(Unified Patent Court):統一特許裁判所

単一特許制度とは:

EPOの審査を経て登録査定を受けた特許を単一特許(UP)として申請することで、全てのUP締約国に対して、一つの特許権で同様の効力を有することが可能となる制度。本制度の施行開始は現在の所未定だが、2022年秋以降から2023年春にかけて開始される見通しである。

 

単一特許の管轄:

単一特許は、統一特許裁判所(UPC)の管轄下に置かれ、UPCの判決が全てのUP締約国において一斉に適用される。UPCは、特許侵害訴訟や特許取消訴訟等について判決を下す。

 

UPCからの離脱(オプトアウト):

単一特許制度が開始されると、UP締約国におけるEPOが付与する特許(制度開始前に登録済みのものを含む)は自動的にUPCの管轄下に置かれ、UPCによる判決の効果はすべてのUP締約国に及ぶ。そこで、UPCによる判決の一斉適用を回避するための措置として、UPCの管轄から離れるオプトアウトという制度がある。オプトアウトすることで、特許を取得したい国毎に、その国の裁判所に管轄権を移すことができる。その結果、裁判所の判決は、その国においてのみ有効となり、UPCによる判決の一斉適用のリスクを回避することができる。

 

オプトアウトができる期間:

オプトアウトは、いつでもできるというものではない。オプトアウト可能期間として、UPCが開所されてから最低7年の移行期間(暫定期間)が設けられており、この期間内であればいつでもオプトアウトができるが、移行期間を過ぎてしまうと一切できなくなる。移行期間経過後、UP締約国を指定するEPOが付与する特許はUPCの専属管轄下に置かれ、そこからの離脱はできなくなる。なお、オプトアウトした特許は、移行期間内及び移行期間経過後、いつでもUPCの管轄に戻すことができる(オプトイン)。ただし、一旦、オプトインした特許を再度オプトアウトすることはできない。

 

既に欧州特許として成立済の特許:

UPC開所(移行期間開始)と同時にUPC判決の一斉適用のリスクが発生する。このリスクを避ける手段として、移行期間開始前に3か月のサンライズ期間が設けられている。サンライズ期間中は、UPCがまだ稼働していない。従って、UPCのリスクを避けたい成立済の特許は、このサンライズ期間にオプトアウトすることができる。

 

2.現行の制度

現在、欧州への特許出願ルートは、次の3つです。
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①の各国ルートは、希望する国に夫々個別に出願するルートです。審査は国毎に行なわれて、特許査定が下された国で登録されます。
②のEPCルートは、欧州特許庁(EPO)に出願して審査後、特許査定が下されると、EPCに締約している国であれば、出願人が指定した全ての国において特許を登録することができます。
③のPCTルートは、国際出願(PCT)した後、EPC出願に移行するルートで、移行後はEPCルートと同様の手続きで審査が行われ、特許査定が下されると②と同様の国で特許を登録することができます。
これら3つのルートには、それぞれ難点があり、①の各国ルートでは、国毎に出願手続が必要で、②のEPCルートでは、特許査定後、指定国の要求に沿った翻訳が必要で、③のPCTルートも、EPC移行後は、②と同様に翻訳が必要となります。
更に、登録料や更新料に関しても、各国毎に納めなければならないので、登録すべき国数が多いと維持費用が高くなるという問題もありました。
一言で言えば、このような難点を解決すべく施行されるのが欧州単一特許制度です。

 

3.欧州単一特許制度の詳細

欧州単一特許(Unitary Patent)制度とは、EPC出願した特許が欧州特許庁(EPO)で審査され、特許査定が下されると、出願人がUP登録手続をすることにより、UP締約国の全てにおいて同じ内容の特許(UP)を一括して登録ができる制度です(UPルート)。
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※) なお、特許査定を受けた後、UP登録をせずに従来通り登録を希望する国を個別に指定して各国毎に登録手続を行うこともできる。
◆制度の利用
早ければ、2022年後半からこの制度を利用できる見通しですが、2022.5.16現在UPへの締約を批准している国は、下表グループAの16ヵ国です。
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グループAは、UP締約が決定している国で、制度施行後は即利用可能です。グループBは、批准手続中の国で、手続きが完了したら利用できます。グループCは、現在批准準備中の国で、批准したら利用できます。一方、グループDは、批准を否定しているUP不参加国で、グループEはEU非加盟国で、これらの国はUPの利用ができませんので、希望する国に対して個別に登録手続を行う必要があります(図3参照)。
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◆単一特許の取得方法
単一特許(UP)の取得は、欧州特許庁(EPO)に出願した特許が審査を経て特許査定が下された特許が対象になります。出願人は、特許査定になった特許を単一特許(UP)にするか否かの選択ができます。単一特許を希望する場合は、特許付与後1か月以内に欧州特許庁(EPO)に対してUP請求を行わなければなりません。
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UP登録手続を行うことで批准が完了したすべてのUP締約国で単一特許を一括して登録することができます。

 

各国のUP締約の批准状況に関する最新情報は、下記URLのRatification Details(批准詳細)からご覧になれます。
https://www.consilium.europa.eu/en/documents-publications/treaties-agreements/agreement/?id=2013001

 

UP請求時に特許明細書全体の翻訳が必要です。
・単一特許請求時の特許明細書が英文の場合:
⇛欧州連合の他の国の公用語への翻訳文(明細書全体)が必要です。
・単一特許請求時の特許明細書がフランス語、または、ドイツ語の場合:
⇛英語への翻訳文(明細書全体)が必要です

 

◆単一特許(UP)選択時の注意事項(費用)
特許出願から特許付与までに要する費用は、従来と同じです。但し、付与後の登録料及び更新料に要する費用に差が生じます。UPの場合、1か国の登録料及び更新料の凡そ4倍の費用が発生します。仮に、UP締約国が25か国になった際、単一特許(UP)を利用した場合の登録料及び更新料は、図5の青のグラフで推移し、全てのUP締約国で夫々個別に登録料及び更新料を支払う場合は赤のグラフで推移します。
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従って、EPC 出願した特許が、UP 締約国のうち4か国以上の国で登録を必要とする場合は、UPを利用する方が概ね割安と言われています。
また、翻訳費用についても、登録すべき国数が多ければUP利用の方が割安と言われています。
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◆単一特許に対するアクション(無効訴訟、侵害訴訟、etc.)
現在、欧州特許庁(EPO)で許可された特許は、出願人が指定した国で夫々個別に登録されます。従って、登録された特許の有効性や侵害の有無は、登録された国で判定され、その結果は他の国には影響を与えません(属地主義を採用)。
これに対して、単一特許(UP)は、UP締約国の全てにおいて同様に有効となるため、単一特許に対するアクションの結果もUP締約国の全てにおいて共通に適用されるものでなければなりません。従って、欧州単一特許制度では、欧州特許庁が許可した単一特許に対する全てのアクションを一元的に統括する統一特許裁判所(UPC)が設けられました。この統一特許裁判所(UPC)は、2022年後半の単一特許の利用開始とともに機能することになります。
統一特許裁判所の判決は、当然のことながらUP締約国の全てにおいて共通に適用されますので、今までのように裁判所の判定結果が国毎に異なるという心配はなくなります。
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(注)なお、異議申立に関しては、従来通り欧州特許庁(EPO)で処理されます。

 

構成要件が複数の国に跨る様な方法特許やシステム特許等の侵害訴訟は、これまで間接侵害でしか訴えることができませんでしたが、UPCを利用することで全てのUP締約国を包括的に管理することができるため直接侵害で訴えることが可能になります。
一方、UPCの判定がUP全締約国に包括的に適用されるということは、仮に無効訴訟で単一特許が無効との判決がなされた場合、全てのUP締約国で同時一斉に特許が無効化されるということに注意すべきです。
よって、UPか否かは、権利者及び第3者にとって重要な意味をもちます。

 

◆UPCの設置場所
UPCの第一審裁判所は、中央部・地方部・地域部に分かれて設置されます。中央部は、パリとミュンヘンを含む3か所に設けられ、原則として無効/取消や非侵害確認訴訟等、特許の有効性を争う訴訟を担当します。
一方、地方部と地域部は、各UP締約国に設けられ原則として侵害事件を担当します。
第一審の判決に不服の場合は、控訴裁判所にアピールすることができます。
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4.(重要)登録済み及び移行期間中に登録された欧州特許の取り扱い

本制度開始前に登録された特許、及び、制度移行期間中に登録された特許は、何もしなければ自動的に統一特許裁判所(UPC)の管轄下に置かれます。
これを回避するには、欧州特許権者自身が、移行期間(min7年/max14年)内に欧州特許庁(EPO)に対してUPCから離脱(オプトアウト)するための手続きをとらなければなりません。この機会を失うと永遠にUPCの管轄から抜けられなくなりますので細心の注意が必要です。
対象となる特許は、UP締約国で既に登録されている全ての特許と、係属中の欧州出願です。
継続中の欧州出願は、事前にオプトアウトの手続をしておくことで、その出願に対する特許査定が下された時点で自動的にオプトアウトが適用されます。

 

◆オプトアウト手続き
オプトアウト手続は、制度の移行期間中と移行期間終了後とでは、取り扱いが異なりますので注意が必要です。
移行期間中は、オプトアウトするか否かの選択ができます。また、審査中の特許であっても移行期間中のオプトアウトは可能です。しかしながら、移行期間終了後は、オプトアウトができなくなりますので、特許訴訟の管轄は図8のようになります。
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(注)移行期間終了後はオプトアウトができなくなりますので、UPCの管轄下に置きたくない特許は、出願の時点でEPC出願を使わずに、各国毎に出願する必要があります。

 

◆オプトアウト手続上の注意点
オプトアウトは、欧州特許権者及びEPO係属中の特許出願人が欧州特許庁(EPO)に対して申請することで認可されます。ただし、その申請手続には、以下の注意点に留意する必要があります。

 

✓  オプトアウト申請手続は、統一特許裁判所(UPC)開所後の移行期間(最低7年/最大延長でも14年)内、及び、サンライズ期間と呼ばれるUPC開所前の3か月間でしか行うことができません。
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✓ オプトアウトした特許は、その特許の存続期間中オプトアウトが適用されます。

 

✓ オプトアウトした特許を撤回する(オプトイン)ことは可能です。オプトインした特許はUPCの管轄下に置かれます。しかしながら、一度撤回(オプトイン)した特許を再度オプトアウトすることはできません(2回目以降のオプトアウト禁止)

 

ただし、統一特許裁判所(UPC)で一旦手続が受理された特許は、オプトアウトすることができません。その結果、以下のような事態を引き起こす危険性がありますので十分ご注意下さい。
・競合企業等の第三者がUPCに手続を求めた場合(特許無効、非侵害確認、等)には、オプトアウトができなくなり、最悪UP全締約国で特許の取消や非侵害の確定判決の効果が一斉に及ぶことになります。

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このような事態を避けるには、第三者がUPCにアクションを起こすことができないサンライズ期間(UPC開所前の3か月間)を利用して特許をオプトアウトして置くことが効果的です。

 

5.最後に

単一特許制度は、欧州でも類を見ない産まれたてのひな鳥のようなものですので、この制度が適正に機能するまでは時間がかかることが予想されます。また、この制度の利用に当たっては、様々な角度から状況判断してケース・バイ・ケースでの対応を余儀なくされることも予想されます。
ご利用に際しては、利用時の注意点や手続支援など、弊社は全力でご協力させて頂きますので、遠慮なくご一報下さい。