新製品開発を成功に導くためには、戦略的な知財調査がカギになります。
そこで「新製品開発と知財調査」をテーマに知財調査のポイントをご紹介していきます。
【新製品開発と知財調査(分析)】
最初に、新製品開発の各プロセスで知財調査(分析)がどのように関連してくるかについて紹介します。
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下記は『典型的な新製品開発のプロセス』を示すフローです。
このフローは縦軸に沿って最終的な市場投入に進みますが、新製品開発のプロセスには、実は横軸が存在し、その上流・下流にはそれぞれ事業戦略と知財調査(分析)が存在しています。
これを表すと下記のようなものとなります。
ここで大切な事は、知財調査とは、特許DB だけではなく文献やネット情報等も含めた総合的な調査であるということ、そして、調査の基本は、上流の事業戦略に合致するように行わなければならないということです。
以下に、知財調査(①~⑥)の概要を開発プロセスの各ステージに沿って紹介します。
なお、ここでは、経営者や技術者にとって馴染みやすいキーワード検索をベースに説明したいと思います。
(1) 新製品開発計画
新製品開発計画は、事業戦略の中の事業方針・事業計画を具体化したものであり、この段階で行われる知財調査(分析)は「商品企画調査」があります。
商品企画調査とは、開発すべき製品が自社の技術だけで賄えない場合、技術導入や共同開発を視野にパートナー探しをするための調査です。その手法は、自社技術では補えない技術を有している企業や大学等の研究機関をキーワードで調べます。
ここで大切な事は、使用するキーワードは、技術用語だけではなく、事業戦略の肝となる用語(言い換えれば、製品のセールスポイントを示す用語)を組み合わせて使うことです。何故なら、低価格を売りにする製品に対して、如何に優れているとはいってもコストのかかる技術では経営に支障を来す危険性があるからです。従ってこの場合は、欲しい技術の用語と低価格を組み合わせて検索するのがお薦めです。
検索に使用するデータベース(DB)としては、
また、ウェブで見つけた企業の実力を見極めるには、その企業名で特許の出願人検索をして出願されている特許の明細書に目を通すと良いでしょう。
(2) 新製品のアイデア創造
全ての新製品はアイデア創造から始まります。
アイデア創造の元となる種(シーズ)は、
などであり、これらの種(シーズ)は事業戦略に沿って生み出されるべきものです。
次の段階であるスクリーニングを考慮すると、この段階で多くのアイデアが創造されることを期待したいもので、アイデア創造の手法には社内公募制度や関係者によるブレーンストーミングが王道であり、出されたアイデアを整理するにはKJ 法などが用いられます。
社内アイデア公募制度は下記の例を参考にするといいかもしれません。
そして、この段階においても行われる知財調査(分析)として「ヒント調査」があります。「ヒント調査」は、自社の技術課題や市場ニーズ、顧客の要望等を実現すために必要な解決手段を探し出すことを目的とするものです。ここで重要なことは、調査対象の技術分野を絞らないことです。ヒントになる情報は、自社と同業の分野よりも異業種分野に隠れていることも多いのです。例えば、一世を風靡した「ポケモンGO」は、ゲームとGPSのコラボレーションから生まれたものです。既存の技術同士を単に組み合わせるだけで、今までに無い全く新しい製品を創造することも出来るのです。調査方法としては、異業種分野の中からヒントを掴むために、手段(どうするのか)ではなく目的(何をしたいのか)をキーワードにする方が良いでしょう。
(3) アイデアスクリーニング
創造された多くのアイデアをふるいに掛けます。
ある基準によって要素を選び出すことをスクリーニングと言いますが、スクリーニングのための「基準」は各企業の事業戦略により異なりますが以下のようなものがあります。
これらの基準はマーケティングコンサルタントであれば挙げる基準ですが、これに知財戦略としての基準を盛り込まなければなりません。
それは「特許調査等による先行知的財産権の存在」という基準です。
多くのマーケティングコンサルタントや経営コンサルタントが執筆した書籍を読んでも「知的財産権」に触れている書籍はほとんどありません。しかしながら、この基準を無視すると後のプロセスが全く無駄なものとなってしまう可能性がありますので大変重要な基準となります。従って、アイデアスクリーニングのための「先願調査」は必須と言えるでしょう。
先願調査とは、経営の効率化を目的とし、他人の権利を無造作に侵害しないための予防調査とも云えます。折角、人・金・物、そして時間を注ぎ込んで完成させた製品が他人の権利に触れていたことが後から判明したら、全てが無駄になるだけでなく事業自体の存亡にも大きな影響を与えるでしょう。従って、アイデアのスクリーニング段階でしっかりとした事前調査を行う必要があります。
調査方法としては、開発する製品に必要な技術の中で「コアとなる技術」と「製品のセールスポイントに必須の技術」に焦点を当てた調査が有効です。いざとなった時に避けられない技術は、出来るだけリスクを最小化しておくべきです。先願調査は権利調査と等価なので、調査対象は特許DB です。ここでは、技術キーワードを使って類似特許を探し出すことが肝要です。見つかったらその類似性を自己都合で判断するのではなく、特許の専門家に客観的な意見を求めることをお薦めします。
(4) 製品コンセプトの確立
スクリーニングされたアイデアを「需要者が欲しがる理由」に高めるプロセスが製品コンセプトの確立です。
アイデアの状態だけでは需要者が製品を購入する動機付けになりませんので、「アイデア」を「コンセプト」へ昇華させなければなりません。この「コンセプト」は事業戦略のうち製品計画・市場戦略におおいに関連するものです。
例えば、今までにない「膝の負担を軽減する下肢用サポーター」の新製品開発で、単に「新素材○○を使ったサポーター」や「関節保持機能▽▽を使ったサポーター」では「アイデア」の域を出ません。このアイデアのままでは、需要者にとってどのような得(ベネフィット)があるのかが伝わらないからです。
そこで、「新素材○○を使った膝用サポーター」や「膝関節保持機能▽▽を使ったサポーター」というアイデアがあった場合、下記のようなコンセプトを確立し、需要者に具体的なベネフィットを訴求する必要があります。
膝に不具合→高齢者に多い→高齢者は買い物弱者の場合も→新製品利用で日々の買い物が楽
膝に不具合→高齢者に多い→高齢者はお孫さんと一緒に遊びたい→新製品利用でお孫さんと思う存分遊べる
膝の故障→アスリートに多い→アスリートは早期の競技復帰を望む→新製品利用で早期復帰
コンセプトの有効性は、企業の事業戦略で異なってくるのは当然ですが、あわせて同種のコンセプトを持つ製品がどのような市場戦略を採っているかを調べ、自社の戦略を比較してその有用性を検討する必要があります。
この段階で必要な知財調査が、スタンダード(技術標準や技術規格)に関連するライセンス調査です。例えば、電気通信業界では、動画等の標準規格としてMPEGや携帯電話の3G、4G、5G等にはライセンスを取得すべき特許が含まれており、所定のライセンス料を支払うことが義務付けられています。このように、開発する製品に採用する技術が、事前のライセンス取得を必要とするような場合、それを知らずに製品販売をしてしまうと、後から金銭要求が来て思わぬ出費で事業計画が頓挫する危険性があります。
業界毎に技術標準が定められていますので、事前にしっかりと調査を済ませ事業環境を整えておくことが大事です。なお、デファクトスタンダード(事実上の技術標準)については、パテントプール団体等でロイヤルティの徴収・管理を行っていますので、こちらの方にも注意しておきましょう。
(5) 新製品開発(試作/評価/製造)
実際に製品を製造し、所望の効果を発揮するか否かを検証するプロセスです。このプロセスは、事業戦略のうち技術(開発)戦略に関連するもので、このプロセスにおいて技術的な課題が発生することが想定されます。しかしながら、実際に生じた技術的な課題を解決する方法は相対的に新規な発明であり、この新規な発明についても特許調査(権利化調査)を行う必要があります。特許調査(権利化調査)の結果が良好な場合には特許出願するのかノウハウ管理による秘匿化を行うのか検証する必要があります。
特に、製品開発の過程では思わぬ技術的な障害や不具合が発生します。これらの障害や不具合を解決するアイデアは自社にとって重要であり、かつ、競合にとっては脅威となるアイデアです。即ち、権利化調査とは、「攻めと守りの調査」と云えるほど重要な調査なのです。他社との差別化を図り模造品や類似品を抑制するためにも、この権利化調査には一層の注力が必要です。時には、この権利化調査の過程で自社の障害となる他社特許が見つかることも珍しくありません。その場合には、当該他社特許を回避したり、潰したりする必要があります。
権利化調査は、特許DBを使ってアイデアの技術用語をキーワードにして検索する手法が一般的ですが、調査対象技術がはっきりしている反面、
等の権利解釈を含む法的判断が求められます。従って、この調査だけは、外部の専門機関(特許事務所)に依頼する方が得策と云えるでしょう。また、他社特許から上手く逃げているか否かの判断が微妙な場合には、数社の特許事務所を使ってセカンドオピニオンを求めるのも良いでしょう。他社特許侵害の可否判断は、その後の事業計画に大きな影響をもたらしますので可能な限り慎重を期すべきでしょう。
(6) 市場投入前
市場導入前の段階で最終リスク調査を行うことが望ましいと思われます。アイデアスクリーニングの段階で行った先願調査から期間が相当空いてしまった場合など未公開特許情報が公開されている可能性があるからです。また、この段階では具体的な製品が出来上がっていますので具体的な製品に基づいて特許だけではなく先行意匠権や商標権も調査する必要があります。
最終リスク調査を行う時期は、新製品を市場に投入する最終段階に当たるので社内的にも繁忙期です。そのため、調査に時間を割く暇がない企業も多く、最後の詰めが甘くなる傾向にあります。ただ、このリスク調査は、ターゲットがはっきりしており然程コストも掛からないので外部の特許事務所に委ねる方が良いでしょう。
なお、意匠や商標の調査は、事業戦略の都合上市場投入前にプレスリリースしたり、展示会に出展したりする機会も多いので、真似され易いデザインやネーミングは公表前に先願調査をして大丈夫なら早目に権利化をしておくことをお薦めします。
(7) 市場投入
これまでのプロセスを経て、本格的な新製品の市場投入となりますが、市場投入すれば顧客から新たな要望が寄せられると思われます。これらはアイデアの種となるものですので以降はこれまでに紹介したサイクルをループ状に回していく必要があると言えます。
今回ご紹介した『典型的な新製品開発のプロセス』は、既存のマーケティング視点からのプロセスだけではなく、事業戦略との関連性と知財戦略(特に事前の調査・分析の有用性・重要性を紹介し、どの段階でどのような特許調査を行ったほうがよいか)視点を加えたものとなります。
<参考文献>
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(1) 商品企画調査
この調査は、事業方針や事業計画に基づいて策定される『新製品開発計画』に必要な調査です。新製品を開発する場合、その事業方針は「自社の強みを活かす新製品開発」と「自社の弱みを補う新製品開発」の二つに大別できます。
以下に、それぞれの事業方針で行われる商品企画調査について事例を参照してご説明します。
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同社は、自社の強みである超音波溶着(溶断)技術を活かしてフードカッター事業への新規参入を計画しました。この段階で必要な調査としては、他人の権利を侵害しないための「権利状況調査」が挙げられます。権利状況調査では、使える権利と使えない権利を把握し、自社の超音波溶断技術の邪魔になる特許が存在するか否かを見極めることが重要です。
この調査のポイントは、調査対象期間にあります。短期間の調査では意味がありません。数十年に亘る長期間の調査が大事です。そのため、同社では図1 のように現在から遡ること50 年間の調査を行っています。その結果、既に権利が消滅した特許と権利継続中の特許を俯瞰することができます。特許は20 年で権利が消滅しますが、優秀な技術は、それを超えてロングランで使用されます。その結果、どんな技術が使えて、どんな技術が使えないかを把握することができます。必要とする技術が使用可能な特許であれば、安心して新製品の開発が出来るでしょう。図1では、黒い棒が権利消滅特許を、オレンジの棒が権利存続中の特許を示しています。本事例のフードカッターは、食物を超音波で切削するもので、このオレンジの棒の中に超音波切削特許がなければ、新製品の開発に着手しても問題はないということができます。
ロ)自社の弱みを補う新製品開発時の調査(事例2:ヒガノ株式会社)
同社は、門扉や庇(ひさし)、車止め、傘立て等、建物のエントランス周りの金属製備品を製造販売しています。時代のニーズに応え新製品を産み出していくには、自社の技術だけでは限界があると感じ、弱みを補うべく積極的に他社とのコラボレーションを推進しています。
一般に、「他人の特許は使うな!逃げろ!」と言われていますが、弱みを補う事業戦略では、逆に他人の特許を利用するのも得策です。その際の調査のポイントは、自社の顧客や自社製品が使われている環境に目を向けて見ることです。同社は、傘立て(自社製品)の新製品を開発するにあたり、それが使われる対象物の「傘」に着目しました。傘の弱点は雨の日の濡れた傘の「しずく」です。
同社は、傘立てに応用できる「しずく対策技術」を持つメーカを徹底的に調査したようです。そして、探し出したメーカと共同開発を行い、ビニール袋も電気も要らない傘のしずく落とし(レインカットECO:登録商標)を誕生させました。自社の傘立て技術と他社のしずく落とし技術を見事に融合させた環境にも優しい新商品と言えるでしょう。
(2) ヒント調査
この調査は、新製品のアイデア創造の段階で行われる調査です。アイデアは、ただ黙って考えていてもそう簡単に思いつくものではありません。アイデアの創造には「目的」が必要です。そして、その目的は、市場のニーズやユーザからの要望、あるいは自社が抱える課題等、事業戦略の中に存在しているのです。
従って、アイデアの創造に必要なことは、まず「目的」を明確にすることです。言い換えれば、ヒント調査においても、この目的がキーワードになると言うことです。以下、事例を参照してご説明します。
ハ)市場ニーズからのヒント調査(事例3:北海道立総合研究機構)
同機構では、大半を輸入に依存しているトウモロコシの道内供給を実現するため、今まで家畜飼料として利用されていた北海道産の子実トウモロコシを粉砕・精選して食材に利用することを検討していました。
しかしながら、子実トウモロコシの食材としての栄養・機能性や食味・加工適性に関する情報が不足していたため、機能性評価と共に特許情報を使ってコーングリッツ(穀物素材)の活用を意図した用途調査を行いました。
この調査のポイントは、分野を食物だけに限定せずより広範囲の調査を行うことです。図3は、1990年以降の穀物素材の利用分野について特許情報を基に収集・分析した結果を示したものです。赤枠の中に注目すれば、食材だけに利用するのではなく、発酵させたり酵素処理することで、様々な用途に利用可能なことが可視化されました。同機構では、今後は食用だけでなく医薬や健康機能性食材としての開発にも注力していくとのことです。このように、自社の製品や技術を固定観念に捉われることなく、より広い発想を導き出すヒントとなる情報が特許情報の中には隠れているのです。
同社は、こんにゃくの製造メーカですが、最近の低カロリー、ダイエットブームに乗って新しい「こんにゃく麺」の開発を検討しました。しかし、当業界は大手企業を含め競合が多いため開発の方向性と他社との差別化を図るべく特許調査を実施しました。この調査のポイントは、ユーザが何を望んでいるのかを把握することです。特許明細書の「発明が解決しようとする課題」を分析することで各社が取り組んでいる課題を知ることができます。その結果、こんにゃく加工食品の課題は、国によって違っていることが判明しました(図4)。
日本は食感と風味、中国は利便性とコスト、米国はダイエット、そして台湾は美肌と国毎に様々なようです。しかし、ここで注意しなければならないのは、特許明細書に書かれている課題は、企業(出願人)の課題であってユーザの声とは必ずしも一致しない場合があるということです。
そこで、同社は、本当に日本のユーザが食感と風味に期待しているかどうかを判断するためにツイッターと特許のクロスチェックを試みました。
すると、驚くことに、日本のユーザは確かに食感と風味への期待が大きいのも事実ですが、企業がさほど注力していない「臭み」と「コシ」、それに「見た目」が重要であることが分かりました。同社は、この「臭みとコシ」を重要テーマに位置付けて開発計画を立てたそうです。
このように、ユーザの要望(期待)から開発の方向性を検討する場合、特許調査だけではなくSNS情報や営業からの情報等を参酌することが、自分勝手な誤った開発を未然に防止する上で重要と言えます。
<参考文献>
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ここでは、新製品開発プロセスの中流で行われる2 つの調査(先願調査とライセンス調査)についてご紹介します。先願調査とは、新製品開発に必要なアイデアのスクリーニングをするための調査です。一方、ライセンス調査とは、新製品のコンセプト(顧客に訴求すべきセールスポイント)を決める段階で行われるリスク調査と言えます。
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(1) 先願調査
この調査は、新製品に採用したいアイデアが他人の特許に触れていないかどうかを調べるための、いわば「特許侵害の未然防止調査」とも言えます。先願調査の重要なポイントは調査のタイミングです。タイミングを誤ったため取り返しのつかない状況に追い込まれた例は決して少なくありません。
過去に特許侵害で提訴された経験を持つ株式会社アミノアップ化学(北海道)もその一つです。天然由来の素材を使って高機能性健康食品を開発している同社は、ブドウ由来の低分子化ポリフェノールの開発に着手した後、多数の特許が存在していることが判明し、急遽その開発を中止してライチ由来の低分子ポリフェノールの開発に切り替えたそうです。結果的に、この開発の切り替えが功を奏してコマーシャルでも知られているライチ由来の低分子ポリフェノール「オリゴノール」の発売に成功しました。
技術力に自信のある会社や納期に迫られている会社は、とかく開発優先になりがちで製品完成間近になって他社特許に気づくケースが多いのですが、調査が遅れれば遅れるほど被害は甚大になるのです。事業撤退や人員整理に追い込まれた会社は珍しくありません。
では、そのタイミングとは何時か! 早すぎると調査だけが膨大になり的外れになってしまいます。逆に、遅すぎると先に述べたように被害が大きくなってしまいます。ゆえに、製品に採用するアイデアの方向性が具体的に見えてきたタイミングが適切と言えます。
一方、特許侵害で訴えられたケースを見ると、製品の中に入り込んでいる枝葉末節的な技術ではなく、他社製品とバッティングするような機能・性能(セールスポイント)に関するアイデアで争われるケースが圧倒的に多いのです。従って、採用したいアイデアの方向性が見え始め、顧客へのセールスポイントの確立へと繋がるアイデアスクリーニングの段階が、最適なタイミングと言えるでしょう。
ここで、迷うのがアイデア出しが先か、それとも調査が先か、という問題です。
図1 に示すようにその順序は2つ考えられます。先願調査が先のケース(A)とアイデア創出が先のケース(B)です。どちらがいいかを一概に決めつけることは出来ませんが、技術力に自信があり、実現可能なアイデアの幅が大きい場合には、ケース(A)の調査先行でもいいと思います。
しかしながら、調査を先行すると、穴場狙いのアイデアに制限される可能性が高く、自由闊達で創造的なアイデアの創出に支障を来す危険性もあります。これに対してアイデア創出先行のケース(B)は、自由な空間の中で好きなアイデアを発想することが出来ますので、アイデア創出の幅も数も格段に広がるというメリットが得られます。
こうして出されたアイデアの中で魅力的なアイデアに対して先願調査をすることで採用の可否を決める方が効率的と言えます。どうしても採用したいアイデアに似た先願特許が見つかった場合には、事業戦略に照らして、自社の強みと事業予算の観点から差別化を図るべく集中して検討すれば良いのです。
以上、先願調査のタイミングは、アイデアスクリーニングの段階が最適で、かつ、アイデア創出の後に行うのがお薦めです。
(2) ライセンス調査
グローバル化の波は、あらゆる分野で国際標準規格(スタンダード)を加速させました。顧客満足度の観点からもスタンダードに準拠する製品が求められています。しかし、標準だからと言って無造作にその技術を採用すると後々取り返しのつかない事態を招いてしまうことに注意すべきです。
特許プールの仕組みを図2に示します。まず、特許保有者は特許管理会社に自分達の特許を預けます( ① )。管理会社は、それらの特許を一括して特許使用者にライセンス許諾します(②)。特許使用者は管理会社にライセンス料(実施料)を納めます(③)。管理会社は、集まった実施料を特許の保有数に応じて各特許保有者に分配して還元します(④)。これが、いわゆる特許プールの一般的な仕組みです。
なお、ライセンス調査が必要なのは標準化(スタンダード)に関係する技術だけではなく、デファクトスタンダード(事実上の標準化)技術も対象になりますのでご注意ください。スタンダードと違ってデファクトスタンダードの方は、ISO やJIS 等の標準規格を決める団体や委員会のようなものはありません。デファクトに必要な特許を保有している法人や個人の集合です。家庭用のビデオ規格(VHS) やキーボードの配列、折刃式カッターナイフの刀の幅等がデファクトスタンダードです。
突然のロイヤルティ徴収で自社利益に予想していなかった打撃が及ぶのは事前に避けておきたいものです。ライセンスに不慣れな会社は特許事務所等に相談されることをお勧めします。
<参考文献>
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ここでは、新製品の佳境(試作、評価、製造)段階で行われる『権利化調査』と、完成した製品を市場に投入する最終段階で行われる『最終リスク調査』について解説します。
これら2 つの調査の特徴は、「商品企画調査とヒント調査」「先願調査とライセンス調査」と違って、調査範囲が限定的(狭い)だということです。
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(1)権利化調査 製品の開発段階では、予期せぬ様々な課題に遭遇するものです。技術者は、これらの課題を一つひとつ必死に解決して製品完成へと漕ぎつけます。そこで生まれた解決策こそが会社にとって大切な「発明」と云えます。そして、この発明が特許として認められるものなのかどうかを判断するために行うのが『権利化調査』です。しかし、この調査を時間のない技術者に任せていたのでは、大事な発明が黙認されたり、後回しされたりして埋もれてしまうことになりかねません。そこで、この調査を効率的に行う方法をご紹介します。
権利化調査の目的は、技術者が考え出した解決策( 発明)と同じ特許が既にあるか否かを探すことです。ゆえに、調査対象は漠然としたものではなく、かなり具体化されていると云えます。従って、複雑かつ高度な検索手法ではなく、簡単なキーワード検索がお薦めです。
キーワード検索のテクニックは、図1に示すように大別して次の3つの方法があります。縮小検索(広い範囲を狭めながら目的の特許を探し出す方法)、拡大検索(狭い範囲から徐々に拡げて探し出す方法)、そして、ピンポイント検索(一点集中型で目的の特許に辿り着く方法)です。
【例題】 IC カードを使ってゲートの開閉を制御する認証システムを製造販売しているセキュリティ会社(A 社)の例です。A社は、IC カードを用いた安全性の高いゲート開閉の技術を有しているものの、市場は寡占化が進み競争優位性を確保するためには今まで以上に安価な認証システムの開発を余儀なくされました。試行錯誤の結果、互いに異なる二種類の生体情報を関連付けて認証することでコストを大幅に削減することに成功しました。A 社は、この技術に関する権利化調査を行いましたが類似の特許は見つかりませんでした。そこで、自信を持って新システムの販売を開始した矢先、B 社から特許侵害の警告状が届きました。驚くことにB 社の特許には自社システムと酷似した発明が書かれていたのです。A 社は、何故B 社の特許を発見することが出来なかったのでしょうか?
A社では、開発担当の技術者が権利化調査を行いました。彼は、開発した認証システムに必要な技術要素(ICカード、生体情報、ゲート開閉)をキーワードに選び、特許庁が提供している特許情報プラットホーム(J-PlatPat)の簡易検索ツールを使って検索を行いました。すると、ICカードで約27000件、生体情報で約9000件、ゲート開閉で約1000件の特許がヒットしました。しかし、これらの特許を全て調べるには時間がかかりすぎます。そこで、〔P= ICカード&生体情報&ゲート開閉〕というピンポイント検索式をたてて検索をしたら僅か3件に絞り込むことができました。この3件の公開特許公報を調べた所、2つの生体情報を使って認証を行うという特許は見つかったものの、これらを互いに関連付けて認証を行う特許は発見できなかったため自社のシステムは他社特許を侵害しないと判断したのです。確かに、検索方法自体に誤りはなかったのですが、実はキーワードの選び方に問題があったようです。
ピンポイント検索で大事なことは、キーワードの「選び方」と「検索の順序」なのです。そのためには、どんな技術か( 製品の構成) だけではなく、何をしたいのか( 開発の目的) を把握することです。先の例題においては、
更に、 検索の順序は、(1) 目的 →(2) 手段 →(3) 行為の順に行っていきます。
ピンポイント検索で大事なことは、どんな発明か(発明の構成要素) ではなく、何をしたい発明か( 発明の目的) で先ずは最初の検索を行うことです。そうすることで、やりたいことが合致した特許を絞り込めます。次に、発明に必要な技術要素( 手段や行為) で絞り込むことで検索に不慣れな人でも比較的楽に探し出すことが出来るようになります。
(2) 最終リスク調査
特許は、出願されてから約1.5年後に公開されます。従って、アイデアスクリーニングの段階で行った先願調査から新製品の市場投入までに時間がかかっている場合は、念のためにこの最終リスク調査を行い隠れていたリスクがないかどうかを確認しておくことをお勧めします。この最終リスク調査で運悪く他社の障害特許が見つかった場合には、ライセンスを取得する等の早目の対策が必要です。特に、他社からライセンスをもらう場合には、自社の事業が拡大する前に契約しておいた方がリスクを最小化できるでしょう。
以上、「新製品と調査」を解説して参りましたが、効果的かつ効率的に調査を行うには高い専門性とスキルが要求されますので、特許事務所等の調査機関を利用することを視野において進められることをお薦めします。
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