━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第20号 ━━
韓国の巨人サムソンと、サイクロン型掃除機の老舗こと英国のダイソンが訴訟合戦を繰り広げている。
その経緯をたどると、まず、
2009年、ダイソンが特許権侵害を理由に英国でサムソンを提訴し、侵害が認められて約1億円の損害賠償をサムソンが支払っている。(ダイソンの勝ち)
さらに、2013年、ダイソンは、また別の特許権侵害でサムソンを訴えた。
しかし、この時は、サムソンが探し出した特許無効資料が功を奏し、ダイソンが訴訟を取り下げている。(サムソンの勝ち)
そして、今年の2月、サムソンはダイソンに対して、営業妨害を理由に母国の韓国で100億ウォン(約10億円)の損害賠償請求の訴訟を起こした。(決着は未定)
特許侵害は、言い換えれば、物真似といえる。
その物真似をした方のサムソンが、図々しくも営業妨害を出しにしてダイソンを訴えるなんて、何という会社だ!! と、人目には映る行為だろう。
いくら、母国の韓国で訴訟を提起したからといって、世界規模でビジネスを展開している巨大企業サムソンの噂は、世界中の注目を集めるはずだ。
事実、日本でもサムソンの悪口が、ネット上で飛び交っている。
サムソンだって、今回の訴訟で悪い噂が飛び交うことぐらい百も承知の上のことだと推測される。
なのに、何故、サムソンは営業妨害の損害賠償請求を起こしたのだろうか!?
その根拠が、ダイソンによる2度目の特許侵害訴訟で、サムソンが提示した特許無効資料(特許とほぼ同じ内容の先行技術)を見てダイソンが訴訟を取り下げたことにあるのは、ほぼ間違いないと思われる。
「欠陥特許で攻めるとは何事だ!」これが、サムソンの言い分だと推測できる。
営業妨害が認められるか否かは、まさに2013年にダイソンが2回目の特許侵害でサムソンを訴えた当時、ダイソン自身が、自分の特許の欠陥を知っていたかどうかが、焦点となるだろう。
サムソンがどうやってその事実を暴くのか、はたまた、ダイソンがどうやって知らなかったことを証明するのか、実に見物である。
しかし、ここで注目したいのは、特許侵害に対する両社の戦術(ダイソンの攻め方vs.サムソンの守り方)である。
ダイソンは、苦労に苦労を重ねてサイクロン方式の掃除機を開発したのだろう。
だから、1件でも特許侵害が見つかると、その特許で徹底的に相手を叩き潰す戦術を採っているように見える。
自分の牙城には、何人たりとも立ち入りを禁ずる確固たる信念の現れだろう。
一方、サムソンは、ダイソンに対する有効なカウンタ特許を持っていないため、事あるごとにダイソンと戦う羽目に陥っているように見える。
訴訟とは、例えそれが小さな訴訟であっても、人・金・物を予想外に投入しなければならない代物である。
サムソンにして見れば、世間に何と云われようと、これ以上ダイソンと争いたくないという気持ちの現れが、今回の営業妨害訴訟に踏み切らせた本音だと思われる。
両社ともに、言い分は理解できるが、一番の問題は2009年の最初の特許侵害訴訟で決着がついた際のまとめ方にあったと言いたい。
恐らく、裁判所から判決が下されて訴訟が終結した折、サムソンは判決通りの賠償金(約1億円)を払って、さっさと裁判所を後にしたのであろう。
ここに、サムソンの落とし穴があったといえよう。
負けて、どうせ金を払うなら将来に禍根を残さないよう包括クロスライセンス契約や一定期間の不争契約でも結んでおけば良かったのに・・・
サムソンは、恐らく2度目の訴訟はないと踏んでいたのだろう。
『負けてもタダでは帰らない』 これが、裁判の鉄則。
一方、ダイソンも、あまりに自分の牙城に拘り過ぎると、必ずしっぺ返しが来るのを知るべきだ。
サイクロンの代替技術は、早晩きっと現れるはず。その時、立場が逆転して手遅れにならないように・・・
今だけを守る強情な戦術よりも、将来を見越した戦術の方がずっと賢い。
私的には、『裁判は、勝つことよりも、負けないこと!』
これを教訓にしている。
攻め手は、1か所だけでも相手に逃げ道を残してやること。
守り手は、攻め手の立場を尊重しつつ戦いに挑むこと。
それでは、また。
★ 編集後記
ダイソン(大損)とサムソン(寒損)にならないように、くれぐれもご注意下さい(苦笑)。