知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

今、話題の「発明は、誰のものなのか!?」 「発明」と「特許」の違いとは:第49号

2014年11月10日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第49号 ━━

 

会社でなした発明は、発明者(個人)のものか?

それとも、会社(法人)のものか?

 

最近、こんな議論がなされているが、発明は「それを考えた人のもの」と昔から決まっている。

 

従って、発明は誰のものか? との問いに対しては、

 

その発明が何処でなされようと、誰の指示でなされようと、『発明をした人のもの』である、というのが正しいと言えよう。

 

しかし、その発明が特許になった時、特許の権利(特許権)は誰のものか? となると、話は違ってくる。

 

現在は、特許を受ける権利は発明者にあるとされている。

 

その為、会社の業務(発明者の職務)中になされた発明は、発明者から特許の権利を会社に譲渡してもらうような社内規定を設けている企業が多い。

 

何故なら、発明が完成しても会社に権利がなければ、それを実施することも、活用することも出来ないからだ。

 

その代わり、発明者には「発明報奨金」を支払うことも規定している。 発明者には、権利譲渡の対価を受け取る権利があるからだ。

 

また、最近では、特許を使った製品の売上げに応じて毎年「実績補償金」を支払っている企業もある。

 

しかしながら、この報奨金や補償金の額が発明者側と会社側とで大きくかけ離れた場合、

 

青色発光ダイオードのような訴訟にまで発展するケースが過去にも多くの会社で起きている。

 

そこで、このような訴訟を避けるための策として、

 

『従業員が会社でなした発明の権利は会社のもの』という風に制度を変更するとの政府方針が報道され、その是非について現在色々な意見が飛び交っている。

 

完成した発明の権利が、初めから会社側にあるとしてしまえば、発明者が権利を会社に譲渡するという行為そのものが存在しなくなる。

 

よって、譲渡対価(報奨金や補償金)の額を巡る内輪の争いは、ひとまず無くなるだろう。

 

だが、その発明がどんなに会社に利益をもたらしたとしても、権利が会社側にある以上、会社が払わないと決めれば、発明者の懐には一銭も入らないことにもなりかねない。

 

そうなると、社員の発明意欲が無くなってしまうのではないか、との声もある。

 

確かに、特許の権利が会社にあるとしてしまえば、発明者は渡された額に不服があっても争えなくなってしまう。

 

発明意欲がなくなるというより、『会社と争う権利が無くなる』と言った方がいいのかも知れない。

 

しかし、発明者が会社で発明をなす行為は、営業の人間が大きな商談を取ったり、企画の人間が驚くような新企画を出したり、製造の人間が不良率の少ない製品を作ったりするのと何等変わらない(社員の義務とも云える)行為なのである。

 

私は、「発明」と「特許」は同じではないと考えている。

 

発明は技術開発から生まれた「創作物」であり、それを会社の事業として活用するのが特許。

 

特許は、会社にとって事業戦略の重要な「武器」なのだ。

 

さらに、発明という創作物を武器にするためには、多くの部署と大勢の社員の力と協力が必要なのである。

 

個人的には、発明者が会社に権利を譲渡する形をとるのか、それとも最初から会社のものにしてしまうのかは、どちらでもいいと思っている。

 

大事なのは、会社が特許の実施権を持っていなければ、どんなにいい発明でも人類のために供することは出来ないということ。

 

そして、特許で得た会社の利益は、多くの社員の努力の結集であり、決して発明者だけの力で得たものではないということ。

 

従って、報奨金や補償金という名目で、発明者だけに利益が還元されるのは不平等である。

 

発明の評価も他の社員の業務実績と同じように人事考課や成績査定で行われるべきだと考える。

 

発明報奨金制度なんか無くしてしまって、会社も発明者もどちらも特許の実施権を持てるようにすれば良いのでは。

 

そうすれば、自分の成績査定や処遇に納得がいかない発明者は、さっさと会社を辞めて別の会社で特許を使えばいい。

 

あるいは、自ら起業する道を選ぶことも出来る。

 

こうなると、会社も今以上に社員の処遇について真剣に努力するようになるだろう。

 

読者の皆さんは、如何お考えだろうか・・・?

 

因みに、発明者と会社が揉めるのは普段のコミュニケーションに問題があることが多い。

 

発明者に訴訟を起こさせない制度作りよりも、会社と発明者がもっと風通しの良いコミュニケーションができる仕組み作りを優先して欲しいものだ。

 

それでは、また。

 

★ 編集後記

 

どんなに高給取りの野球選手でも、ゲームの中では9人の中の1人。

送りバントを命じられることもあれば、代打を出されることもあり

ます。

 

しかし、それでも与えられた使命に全力を尽くす。これこそ、

超一流プレイヤーの証しなのではないでしょうか。

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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