知財と教訓

知財の教訓企業で知財業務35年の経験者が伝えたい知財戦略(知略)のヒント

法律は、守るもの? それとも、使うもの? 正しい権利主張の仕方とは:第66号

2015年3月30日

━━ 『特許を斬る!』知財経験34年 ・・・ 愚禿の手記 第66号 ━━

 

他人の著作物を無断で使用する事件が後を絶たない。

 

先日も、マイクロソフト社のロゴマークを不正コピーした会社経営者が逮捕されたとの報道を目にした。

 

ところで、パソコンに必須のマイクロソフトのWindowsは、年間どの位不正コピーされているかご存じだろうか。

 

聞く所によると、年間数千億円の損害を被っているらしい。予想をはるかに上回る数字だ。

 

Windowsをパソコンにインストールするためには、COAシールと呼ばれる番号札を購入しなければならない。

 

COAとは、Certificate of Authenticityを意味し、正規にライセンスを受けたことを証明するためのものである。

 

パソコンメーカは、毎年マイクロソフト社とWindowsの年間契約を結び、生産数に応じた数のシールを購入しなければならない。

 

そして、Windowsをインストールした後、パソコン本体にこのシールを貼付して出荷するよう義務付けられている。

 

これが、正規品であることの証明となるからだ。

 

マイクロソフト社とのライセンス契約では、このCOAシールについての取扱い方が、分厚い契約書の中で事細やかに定められており、市場に出回っているパソコンが正規品か偽造品かの区別がつくようになっている。

 

勿論、このCOAシール自体にも、偽造されないように、また偽造品を識別できるように、色々な仕掛けがなされている。

 

COAシールは、一枚が数万円相当の金券と同じなのである。

 

従って、パソコンメーカは、購入したCOAシールが不正に流出しないよう厳重な管理を行っている。

 

にもかかわらず、コピー品は後を絶たないのだ。

 

マイクロソフトは、ライセンス契約を受けた会社がCOAシールを正しく管理しているか否かを調査するために、非常に厳しい監査を定期的に実施している。

 

この監査は、短くても数週間、長ければ数か月にも及ぶ。結論が出るまでに1年以上かかるケースも稀ではない。

 

全世界のパソコンメーカに対して、同様の監査を行う訳だから、恐らく監査費用だけでも莫大な金額に及ぶだろう。

 

ところで、パソコンメーカは、出荷台数に応じたCOAシール購入代金を毎年ライセンス料として支払っている訳だから、メーカからCOAが流出したとしても

マイクロソフトに損はないはずだ。

 

流出して損をするのはパソコンメーカなのだから、何もそこまで厳しく監査しなくてもいいのでは・・・と、常々考えていたのだが、ここが法律に対する『日・米の意識の差』なのである。

 

前にも書いたと思うが、「法律を守るのが日本人、法律を使うのが米国人」

 

これは、『権利』に対する意識の差と云える。

 

我々日本人は、小さい時から、法律は守りなさい! 悪いことをしてはいけません! と、教えられてきた。

 

だから、「法律とは守るものだ」という意識が幼い頃から植えつけられてしまっている。

しかし、言葉を変えれば、法律=権利なのである。

 

「法律を守る」ということは、他人の権利を侵害しないということに等しい。

 

これに対して、「法律を使う」ということは、自分の権利を正しく主張するということなのである。

 

米国人は、法律を使うことで自分の身を守っているのだ。

 

そして、法律を使うためには、「何が自分の権利なのか、どこに自分の権利があるのか」を自らが明確にしておかなければならない。

 

でなければ、いくら声高に権利を主張しても、誰の権利か分からないものを法律は守ってくれないからだ。

 

マイクロソフトが、金と時間をかけて厳しい監査を行う理由は、ここにあるのだ。

 

権利を持ってさえいれば、あとは法律が何とかしてくれる、という考えは甘いということだ。

 

特許も同じ。 登録されたことで安心しているようでは、使えない只の紙切れと同じなのである。

 

海外と戦う時には、特に注意してもらいたい。

 

 

それでは、また。

 

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★ 編集後記

 

自分がやりたい事を認めさせるのが、外国の契約書。

相手に守らせることを書いておくのが、日本の契約書。

 

互いに似て非なるもの。考え方は正反対です。

狩猟民族と農耕民族の違いと云えるでしょう。

 

知っていなければ、対等な話し合いも出来ません。汗、汗、汗

知財法務コンサルタント
堤 卓一郎

埼玉大学理工学部電気工学科卒
日本電気株式会社に入社。以来34年間知的財産及び企業法務に従事し、 特許技術部長、知財法務事業部長、監査役を歴任。在籍中は、多くの国内及び海外企業との知財関連訴訟やライセンス契約の責任者として事件解決や紛争処理に努め、一方で「取得」主体の知財活動から「活用」に主眼を置いた知財戦略や知財活動、教育の改革に取り組む。また、企業法務の責任者として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの管理・運用に従事。半導体事業及びパソコン等のパーソナル事業に精通。

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